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2017/10/10 (Tue)
衛生化学教室の嶋中雄太特任助教、河野望講師、新井洋由教授が、オメガ3脂肪酸を動かしてアレルギーを促す酵素を発見
東京大学大学院薬学系研究科の新井洋由教授らは、マスト細胞がPAF-AH2という酵素によって産生される酸化オメガ3脂肪酸(エポキシ化オメガ3脂肪酸)を介して自身の活性化を促進し、アレルギー反応を促すことを世界で初めて明らかにしました。本研究成果は2017年10月10日付でNature Medicine (オンライン版)に掲載されました。
原著論文:
Yuta Shimanaka, Nozomu Kono, Yoshitaka Taketomi, Makoto Arita, Yoshimichi Okayama, Yuki Tanaka, Yasumasa Nishito, Tatsuki Mochizuki, Hiroyuki Kusuhara, Alexander Adibekian, Benjamin F. Cravatt, Makoto Murakami & Hiroyuki Arai, “Omega-3 fatty acid epoxides are autocrine mediators that control the magnitude of IgE-mediated mast cell activation”, Nature Medicine: 2017/10/10 (Japan time), doi: 10.1038/nm.4417.
論文へのリンクはこちら:
http://dx.doi.org/10.1038/nm.4417 マスト細胞は、アレルギーの中心的役割を担う細胞です。マスト細胞がアレルゲンと出会うと、マスト細胞は活性化し、蓄えられたヒスタミンなどの化学伝達物質を放出することで、痒みや気道収縮、血管拡張による体温低下などを引き起こします。この現象はアナフィラキシーといわれ、時には死に至ることもあります。
今回、マスト細胞がエイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)などのオメガ3脂肪酸が酸化されて生じた「エポキシ化オメガ3脂肪酸(17,18-EpETEと19,20-EpDPE)」を常時産生していることを発見しました。また、これらエポキシ化オメガ3脂肪酸は、PAF-AH2という酵素によって細胞膜から遊離されることも明らかとなりました。そしてエポキシ化オメガ3脂肪酸が、遺伝子発現を変えることにより、活性化マスト細胞の細胞内シグナル伝達を調節するという、新しいアレルギー反応の調節メカニズムを解明しました。さらに、PAF-AH2の阻害剤をマウスに投与することにより、アナフィラキシー反応が大きく抑えることに成功しました。PAF-AH2の阻害剤は、ヒト由来のマスト細胞に対しても同様の効果がありました。
本研究の成果をもとに、今後、PAF-AH2の阻害を分子基盤にした全く新しい抗アレルギー薬の創生が期待されます。
プレスリリースはこちら:
http://www.amed.go.jp/news/release_20171010-01.html