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2014/12/15 (Mon)
有機反応化学教室の倉永健史助教、井上将行教授らが、新規抗生物質ライソシンEの全合成に成功
有機反応化学教室の倉永健史助教、井上将行教授らは、新規抗生物質ライソシンEの全合成に成功しました。本研究成果は、2014年12月9日付けで[Angewandte Chemie International Edition]電子版に掲載されました。
(原著論文): Total Synthesis and Biological Evaluation of the Antibiotic Lysocin E and Its Enantiomeric, Epimeric, and N-Demethylated Analogues (doi: 10.1002/anie.201410270)
リンク先:
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/anie.201410270/abstract 発表概要:
近年、抗MRSA (メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)薬であるバンコマイシンに対しても耐性菌の出現が報告され、新規な作用機序を有する抗生物質の開発が世界的な課題となっています。ライソシンEは浜本洋助教、関水和久教授らにより発見された環状リポペプチド系抗生物質であり、黄色ブドウ球菌類の細胞膜中に存在するメナキノンを標的とし、細胞膜を破壊するという、これまで報告例のない作用機序を有することが明らかとされました。メナキノンは細菌類の電子伝達系に必須の補酵素で、ほ乳類の電子伝達系ではユビキノンが用いられます。ライソシンEはメナキノンと選択的に結合するためほ乳類には毒性を示さず、細菌選択的にその抗菌活性を発揮すると予想されていますが、その詳細な相互作用メカニズムは未解明です。
今回、研究グループはライソシンEの化学合成法の開発に取り組み、ペプチド固相合成法を用いる効率的な合成法の開発に成功しました。本合成法をライソシンEの鏡像異性体を含む数種の類縁体の合成に適用しました。それらの関水・浜本らによる抗菌活性評価により、ライソシンEの鏡像異性体が天然型と同等の抗菌活性を示すことが明らかとなりました。本結果は、ライソシンがアキラルなメナキノンを標的分子として抗菌活性を発現するという、新規な作用機序を有する抗生物質であることを支持するものです。
今後さらなる類縁体の合成により、未解明であるライソシンEの抗菌活性発現に必要な構造要素が明らかとなり、メナキノンとの相互作用メカニズムの解明や、より優れた抗生物質の開発につながることが期待されます。