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2017/06/11 (Sun)
有機合成化学教室の川島茂裕特任講師、山次健三助教、金井求教授らが染色体タンパク質を選択的に酵素に代わって化学修飾する人工的な化学触媒システムを開発
科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業において、東京大学大学院薬学系研究科の金井 求 教授、川島 茂裕 特任講師、山次 健三 助教らのグループは、染色体タンパク質に対してアセチル化という化学修飾を選択的に行う人工化学触媒システム(SynCAcシステム)を開発しました。また、本触媒システムを用いて染色体タンパク質をアセチル化することにより、遺伝子の転写を人工的に促進できる可能性が示唆されました。
本研究成果は、2017年6月8日正午(米国東部時間)にCell Pressの「Chem」誌オンライン速報版で公開されました。
【発表雑誌】
雑誌名: 「Chem」(オンライン版:6月8日)
論文タイトル: Synthetic chromatin acylation by an artificial catalyst system
著者: Tadashi Ishiguro, Yoshifumi Amamoto, Kana Tanabe, Jiaan Liu,
Hidetoshi Kajino, Akiko Fujimura, Yuki Aoi, Akihisa Osakabe, Naoki Horikoshi,
Hitoshi Kurumizaka, Kenzo Yamatsugu, Shigehiro A. Kawashima*, Motomu Kanai*
DOI番号:10.1016/j.chempr.2017.04.002
アブストラクトURL:
http://www.cell.com/chem/fulltext/S2451-9294(17)30168-7 【発表概要】
染色体の最小単位であるヌクレオソームは、ヒストンと呼ばれるタンパク質とDNAの複合体から構成されています。ヒストンは生体内の酵素によって、アセチル化に代表される種々の化学修飾を受けます。化学修飾を受けるヒストンの部位や修飾の種類によって、異なる機能が発現することから、ヒストンの化学修飾は様々な生命現象の制御に関与していると考えられています。
本研究グループは、DNAを認識してヌクレオソームに結合する触媒とアセチル化剤の組み合わせから成る人工化学触媒システム(SynCAcシステム)を開発しました。このSynCAcシステムを用いて、生体内の酵素を介さずにヒストンを人工的にアセチル化修飾することができました。また、この人工的な化学修飾がヌクレオソームの性質を変化させ、遺伝子の転写を促進する可能性を見いだしました。本触媒システムを適切に変えることで、アセチル化に限らずマロニル化反応も進行させることができたため、広く他の化学修飾への応用も期待されます。
今後、この人工化学触媒システムは、生体内反応の機能を解明するのに有用な実験技術の開発や、生体内酵素による触媒反応との代替により治療効果をもたらす“触媒医療”への応用が期待されます。すなわち、新たな疾患治療ツールとして将来の医療の進歩に貢献することが期待されます。