トピックス｜東京大学薬学部

細胞情報学教室の渡邊謙吾 特任助教（研究当時）、森下和浩 大学院生、名黒功 准教授、一條秀憲 教授らの研究グループは、細胞が浸透圧ストレス変化を細胞内タンパク質の液―液相分離によって感知していることを発見しました。本研究成果は、2021年3月1日付で英国の科学雑誌「Nature Communications」の電子版に公開されました。
 
雑誌名：Nature Communications
論文タイトル：Cells recognize osmotic stress through liquid–liquid phase separation lubricated with poly(ADP-ribose)
著者：Kengo Watanabe*, Kazuhiro Morishita, Xiangyu Zhou, Shigeru Shiizaki, Yasuo Uchiyama, Masato Koike, Isao Naguro, Hidenori Ichijo*（*責任著者）
論文へのリンク：https://doi.org/10.1038/s41467-021-21614-5
 
　細胞は、内外の浸透圧差によって強制的に体積を変化させられるストレス（＝浸透圧ストレス）に常に曝されており、浸透圧変化を感知して適切に応答することで体積を一定に保っています。これまでは細胞外環境と接する細胞膜上の変化などを介して物理的実体のない浸透圧変化を感知するという考え方に基づいた研究が主流でした。
　本研究は、ASK3というタンパク質を研究モデルに、細胞が液―液相分離という物理現象を「引き金」として浸透圧ストレスを細胞内部で感知していることを解明し、新たな概念を提示する革新的な研究だと言えます。また、本研究では分子生物学・生化学的手法に留まらず計算機シミュレーションも活用しており、薬学系研究科という多様な人材の集まる学際的な研究環境が奏功した研究例であるとも言えます。
　本研究はいわゆる基礎研究に相当しますが、高血圧疾患や浮腫、神経変性疾患などに対して液―液相分離を制御するといった新規治療戦略の開発に発展することが期待されます。 詳しくはこちら