産学連携

 

産学連携の重要性

微生物薬品化学教室では、産学連携が大学における研究を円滑に進める上にきわめて重要であると認識し、積極的に取り組んでいる。従来の国立大学の教員に対しては、国家公務員法の兼業禁止規定により企業活動を行うことに厳しい制限があった。しかしながら1999年に人事院は、「国立大学の教員が自らの研究成果を事業化する企業の役員となることは、我が国の産業の国際競争力をつけるうえに必要であり、そのような活動は国民の奉仕者としての行為と矛盾しない。」という記者発表をおこなった。それ以来、国立大学の教員が産学連携に参画することが重要であるという機運が高まっている。


産学連携についての新しいビジネスモデルの提案

このような社会的要請に応えるべく、当教室の関水教授は、「新しい産学共同研究モデルによるゲノム創薬事業の試み」という論文を、日本臨床薬理学会誌に発表した(臨床薬理33,17−21(2002))。そこでは、国立大学における研究事業化企業に関する新しいビジネスモデルが示されている。この企業は、製薬企業などと共同研究契約を締結し、大学の研究室に研究者を派遣して研究活動をするというものである。それにより、大学における研究の推進をはかることが狙いである。


教授による研究事業化企業の設立

関水教授は自らの理論を実践するために「ゲノム創薬研究所 (http://www.genome-pharm.jp/)」という研究事業化企業を設立し、東京大学からこの会社の役員兼業の認可を受け、積極的に産学連携活動を行っている。
 設立以来5年間の間に、ゲノム創薬研究所は、製薬企業などと共同研究契約を締結し、(1)黄色ブドウ球菌の増殖制御に関する研究、並びに(2)カイコ幼虫をモデル動物とした感染症治療薬の開発研究を実施してきた。研究成果を特許化することは、この会社の事業の一つの柱である。またこの会社は、中小企業基盤機構などの支援を受けており、最近では大学発ベンチャーとしての評価が定着しつつある。
 現在は特に、カイコ幼虫の感染モデルに関する研究により、新規の細菌感染症治療薬、及び、抗ウイルス薬の開発に取り組んでいる。


大学研究室から見たゲノム創薬研究所の評価

この会社は、東京大学と共同研究契約を締結し、常時4−5名の研究員を、当薬学系研究科微生物薬品化学教室に派遣している。現代の生命科学においては、スクリーニングなどのルーチンワークの実施が必要不可欠である。大学ではともすると学生にそのような負担を押しつけることがあると、大学院生教育における問題として指摘されている。それに対して、ゲノム創薬研究所は、大学に派遣された専門の研究員がルーチンワークを職務として実施し、その成果として得られた学問的に有用な題材を大学院生のテーマとして提供している。その意味でこの会社は、大学における研究教育に多大なる貢献をしている。


ゲノム創薬研究所の主要な研究テーマ

(1)黄色ブドウ球菌の増殖制御に関する研究
ゲノム創薬研究所がこれまであげてきた研究成果で重要なのは、黄色ブドウ球菌の増殖に必須なタンパク質の同定である。これまでに100個を超えるタンパク質について、複数の温度感受性変異株を得、それぞれについて高温での増殖阻害を解消する遺伝子の分離に成功している。この研究成果は、抗生物質の開発に重要なツールを提供するという点で創薬に貢献するものである。また、細菌細胞の増殖に関する分子遺伝学的研究成果としても評価されるべきものである。一般に抗生物質の標的は、細菌細胞の増殖に必須なタンパク質である。その同定については、遺伝子を網羅的に破壊するなどいくつかの方法があるが、温度感受性変異株の分離は最も基本的である。すでに我々は、DNA複製などに関与する遺伝子などを分離している。分離された温度感受性変異株の高温での増殖を相補する遺伝子を解析することにより、もとの遺伝変異を同定することができる。この研究に関して、ゲノム創薬研究所は、製薬企業と4つの特許を共願している。さらに、この遺伝子を発現ベクターに組み込み大腸菌などの適当な宿主内で発現させ、多量生産し精製することができる。それにより、抗生物質のスクリーニングをおこなうアッセイ系の構築が可能となる。実際にゲノム創薬研究所は、製薬企業と共同して、10個のタンパク質について、阻害剤の大規模スクリーニング(HTS)を実施し、抗菌薬の候補化合物を得ることに成功している。

(2)カイコ幼虫を用いた感染モデルに関する研究
またゲノム創薬研究所は、カイコ幼虫を用いた抗菌薬・抗真菌薬・抗ウイルス薬の治療効果を評価する研究を精力的に行っている。感染症治療薬の開発においては、実験動物を用いた感染モデルによる治療効果の評価が必要不可欠である。というのは、試験管内での病原体の増殖阻害効果を示す物質の大部分は、毒性や体内動態の問題で、治療効果を示さないからである。これまで、動物実験として、マウスやラットなどのほ乳動物が用いられてきた。しかしながら、ほ乳動物を大量に感染実験に供することは、コストの面で問題である。また、最近では倫理的な問題も深刻となっている。我々は、カイコ幼虫を感染モデルとした治療効果の評価系を確立している。黄色ブドウ球菌などの病原性細菌やカンジダと呼ばれる病原性真菌は、カイコ幼虫を死亡させるが、ヒトの臨床で治療効果を示す化合物による治療が可能である。またカイコの感染モデルを用いて、ED50値を求めることにより、治療効果の定量的評価が可能である。また、ほ乳動物では治療効果を示さない抗菌物質は、カイコ幼虫の系でも治療効果を示さない。これらの結果を発表した論文(Hamamoto et al. Antimicro. Agents Chemother. 48, 774 (2004))は、アメリカ細菌学会から月間優秀論文に選ばれた。さらに、カイコ幼虫のバキュロウイルスによる感染死は、ヒト臨床で抗ウイルス薬として使われているガンシクロビルやホスカルネットにより治療可能である。ゲノム創薬研究所は、カイコ幼虫を用いた感染モデルによる抗菌薬・抗真菌薬・抗ウイルス薬の治療効果判定について特許を申請している。また、新規な感染治療薬の開発を進めており、複数の有望な化合物を得ている。