平成23年度レポート

中長期派遣(2ヶ月以上の派遣期間)

短期派遣(2ヶ月未満の派遣期間)


丸山 剛 (細胞情報学教室・特任研究員)

派遣期間 平成24年1月21日〜平成24年3月23日(63日間)

派遣先 Ludwig institute for cancer research(スウェーデン)

 本研究プログラムにより、24年1月21日から平成24年3月23日まで、スウェーデン・ウプサラにある Ludwig institute for cancer researchに滞在し、ケミカルバイオロジー的手法を用いた蛋白質精製法の確立と質量分析法の技術習得を目的として、共同研究を遂行した。 Carl-Henrik Heldin を所長とするこの研究所では、対象領域ごとに分かれた研究グループがあり、そのグループに所属する学生やポスドク、テクニシャンがそれぞれの対象研究に従事している。なかでも印象的だったのが、シニアテクニシャンや女性の比率が多いことである。学生やポスドクが日常的におこなう実験や雑務は日本と殆どかわらないが、精密機器のメンテナンスや試薬の管理などはテクニシャンが行う。また、「修理屋」とも言える技術員がおり、彼らは机の修理などの日曜大工から精密機器の改造・修理など、修理対象がバラエティーに富んでいることに驚いた。古いものを大事にするスウェーデンならでわのテクニシャンだと感じた。また、同研究所は、これまで日本人ポスドクを100人近く排出しており、日本に対する関心と理解が深い。現在でも数名の日本人が既に研究に従事しており、日本人ポスドクにとっては非常に過ごしやすい環境であると感じた。このような環境で、およそ2ヶ月間、研究に従事した。
 ASK1はもともとapoptosisを制御する分子として同定されたが、近年サイトカイン産生(マクロファージ)や癌形成(皮膚組織や胃)に関与するなど、様々な組織において多彩な生理現象を制御することが分かってきた。本プロジェクトの目的は、内在性ASK1を各臓器から精製することで、この多彩な生理現象を制御しうる組織特異的ASK1複合体構成因子を同定することである。内在性蛋白質を精製し新規結合分子を同定するためには、目的に合わせて自分でデザインするプルダウン法を軸とした精製ステップが非常に重要であることは言うまでもないが、臓器リソースの粗精製や最終的に分子を同定するためのMass解析の技術なども重要である。同研究所はもともと蛋白質精製を得意としており、カラムを使った蛋白質粗精製技術やMass解析技術のスペシャリストが多く所属している。今回、Ulf Hellman博士およびUlla Engstromに指導を頂いたが、彼らはもともとGE health care 社の前身であるPharmacia社の精鋭で、蛋白質精製から同定までの非常に多くの知識と技術を持っており、彼らとの議論は本当に有意義であった。多くの新しい知識や技術を得られたことに、この場を借りて御礼を言いたい。さらに、結果として内在性ASK1精製により新規結合分子の同定に至ることが出来た。このようにプロジェクトを完遂することが出来たのは、本海外派遣を支えてくださった関係者の方々の支えのお陰であり、心より感謝申し上げます。

梶保 博昭 (生理化学教室・助教)

派遣期間 平成24年3月26日〜平成24年6月6日(73日間)

派遣先 IFOM Foundation (Milano, Italy)

 私は平成24年3月26日から平成24年6月6日までイタリア、IFOM Foundation (Fondazione Isitituto FIRC di Onclologia Molecolare; Institute FIRC of Molecular Oncology)のGiorgio Scita博士の研究室に滞在しました。Scita博士は癌細胞の浸潤/運動に関する分子機構の解明において世界をリードしている研究者であり、多数の先駆的な研究成果を挙げている方です。私はそこでの最先端の研究技術およびプロセスを学ぶべく今回の派遣プログラムに参加させていただきました。
 癌組織からの細胞の転移機構の解明は、癌治療において大変重要な意義を持ちます。しかしながら転移機構は大変複雑で可塑性に富んでいるためその全容の解明には至っていません。転移の際の重要なステップとして腫瘍細胞の組織外への運動/浸潤があり、Scita博士はこの運動/浸潤における細胞骨格のリアレンジメントに興味を持ち研究をおこなっています。私はこの滞在期間で、彼のアイデアについて様々なDiscussionを重ねながら、培養細胞を用いて生化学的/細胞生物学的な種々の実験を行いました。
 IFOMはIEO (Istituto Europeo di Oncologia; European Institute of Oncology)と共同でミラノの中心部にCampus-IFOM-IEOを設立しました。約450名のイタリア内外の研究者が日々研究に励んでいます。またSEMM(European School of Molecular Medicine)と提携し、Ph. D.コースの学生を受け入れるだけでなく、毎週セミナーを開催しています。世界各国の研究者を間近に見て最近のトピックに触れることができ、大変良い刺激になりました。また、細胞の培養、顕微鏡、動物、購買、ITなど様々なファシリティがあり、それぞれに担当のスタッフがいるため、研究者は各ファシリティと相談しながら自分の研究を進めて行けるのは大変助かりました。一方、シークエンスやqPCRなどの遺伝子解析ファシリティに依頼する際や、試薬/消耗品の注文等では日本と比して多くの時間がかかってしまうこともあります。日本の大学のシステムと単純に比較するのは難しいとは思いますが、それぞれに長所/短所があることを体感できた事も今回の派遣事業で得られた成果の一部だと思います。  研究室内には多くのポスドクがおり、現在抱えている問題について普段からフランクに話し合う文化があり、大変刺激を受け参考になりました。また、同僚はとてもフレンドリーで、Mozzarellaチーズパーティやサッカー観戦等、色々なイベントに参加しました(日本の漫画やサッカーの話題は皆が熱くなる!)。
 観光都市であるミラノですが、生活をする上で行く場所(スーパー、駅員、バールなど)では殆どは英語が通じないため、たどたどしいイタリア語で何とかやって(と勝手に思っているだけですが)いきました。しかし、Campus-IFOM-IEO内は英語が公用語です。つまりイタリア語と英語が飛び交う環境にいきなり放り込まれた訳です。始めはどこで文章が切れるのかさっぱり分からないイタリア語も2ヶ月もすると1%位は(と勝手に思っているだけですが)何を話題にしているのか位は分かる様になりました。
 食生活について一言。イタリアは日本人の口に合う料理が多くあります。研究所内の食堂では日替わりのイタリア料理(当たり前ですが)を堪能し、パスタやピッツァはもとより、魚/肉/サラダなどなど趣向を凝らした色々な料理を堪能しました。また、日本料理屋だけでなく日本食材を売っている店も充実しているので、食に関しては長期の滞在というハンデを感じさせる事がありませんでした。これはイタリアならではの長所ではないでしょうか!  最後に募金について。IFOMはAIRC(イタリア癌研究協会)という協会が主に資金を援助しているのですが、AIRCが主催している母の日のアゼリア募金活動というのにもIFOMの日本人研究者やスタッフ共にボランティアで参加してきました。鉢植えのアゼリアを15?でミラノの様々な街角で母の日に販売するという活動で、そのうちの一カ所に行き、朝から販売しました。500個以上のアゼリアが数時間の間に売れました。アゼリアへの支払は寄付活動としてみなされ、税金の控除対象となる事も購入理由の一つとは思いますが、イタリア人の母への愛を感じました。日本でも寄付に対する税制が変われば、自然科学研究への寄付金が増えて行くのかもしれないと思った経験でした。
 この様に、環境を変える事によって得られた体験というのは何にも代え難い物であり、多大な支援を頂きました「組織的な若手研究者等海外派遣プログラム」に改めて心から感謝したいと思います。
 

李 世和 (生理化学教室・特任研究員)

派遣期間 平成24年3月2日〜平成24年5月10日(70日間)

派遣先 Yale大学(New Haven, USA)

 私は平成24年3月2日より5月10日までアメリカ、Yale大学、Department of Cellular and Molecular Physiologyの富田 進准教授の研究室に、visiting scientistとして滞在させていただきました。富田進先生は、東京大学薬学系研究科の先輩であり、アメリカで独立して研究室をもたれ、神経伝達の研究領域において第一線で活躍されている研究者です。今回の訪問では神経伝達の基礎を勉強させてもらうために富田研に参加させてもらいました。
 富田研の所属するYale大学はアメリカ東海岸のConnecticut州New Havenにあります。New Havenはマンハッタンやボストンから電車で二時間ほどの近い距離にあるものの都会の喧騒とは程遠く、町のあちこちに大学関係の建物が立ち並ぶという学園都市の雰囲気を持っています。治安のことが話題にのぼることが多いですが、2ヶ月間過ごしてみた限りで、パトカーのサイレンが頻繁になっていること以外に、危険はほとんど感じませんでした。
 アメリカではポスドクで優れた業績を上げた研究者はすぐにPIとして自分のラボを持つようですが、富田先生の所属するDepartmentにはそうした数多くのAssistant ProfessorやAssociate Professorが所属していました。彼らはラボメンバーとの議論、打ち合わせや日々の実験に加えDepartmentの会議や仕事に追われながらラボを運営しています。朝から晩まで、土曜も日曜もなく働いている姿を側から見ていても、その多忙ぶりが伝わってきました。渡米前は、アメリカの研究者は日本ほど夜遅くまで研究室にはいないというように聞いていたのですが、独立して自分の研究室を持ち、そこからさらにテニュア取得や更なるプロモーションのために業績をあげるためには、人一倍の仕事の量と質が必要だというのはどこの国も変わらないのだと感じました。
 富田研には2ヶ月間しか滞在しなかったのですが、その間、いくつかのイベントがありました。一つは富田研初めての学生のPhD取得です。私の参加した博士発表は、本審査が終わった後の誰でも参加できるオープンなものだったので、ぴりぴりした雰囲気はそこまで感じませんでしたが、本審査は教授陣に囲まれて徹底的にたたかれるというとても厳しいもので、普段はひょうひょうとしているその学生がとてもナーバスになっていたという話を聞きました。博士発表も「Defence」と呼ばれるだけあって、「学位取得について自分の研究の正当性を勝ち取る」という、私が経験した日本の博士発表とは違う雰囲気を感じました。もう一つは、富田研に所属していた住岡暁夫研究員の国立長寿医療研究センターへの就任です。住岡さんも東京大学薬学系研究科にて学位を取得されたあと、ポスドクとしてYaleの富田研に留学され、素晴らしい業績を上げてきました。次の研究の場としてアメリカでのポスドクを考えている私にとって、留学で素晴らしい業績をあげ日本に凱旋していく先輩を見ることができ、留学に対するモチベーションがとても高まりました。さらにもう一つ、私の滞在中に富田先生がテニュアを取得しました。普通テニュアを取得するのに必要とされる年数より2, 3年早い取得ということで、世界的にも著名な大学で薬学部の先輩が大活躍し認められているのを目の当たりにすることができ、とても誇らしく感じました。
 富田研滞在の最後の日には、Post-Doc CandidateのJob Talkにも参加させてもらいました。Job Talkでは、まず富田先生がCandidateにラボを簡単に紹介した後、約20分かけてそれぞれのラボメンバーが一対一で自分の研究についてCandidateに話し議論をするという時間が持たれました。その後Candidate自身の研究を発表するためのセミナーが行われたあと、富田先生とCandidateが議論する時間が持たれ、最後にCandidateを交えたDinner Timeとなりました。Job Talkに参加するのは初めてだったので、アメリカでの研究職の就職活動の一連の流れを見ることができたのはとても良い経験でした。 今回の渡米は2ヶ月間という短い期間ではありましたが、とても有意義な時間をすごすことができました。本プログラムの援助によってYale大学富田研に参加し、確実に自分を変えることが出来たと感じています。このような貴重な機会を与えてくださいました堅田 利明教授、短期留学を全面的にサポートしてくださいました富田 進准教授、アメリカ滞在中とてもお世話になった富田研の皆様に深く感謝いたします。また、本プログラムによる支援をいただけたことを感謝するとともに、組織委員の先生方に心から感謝いたします。

江上 蓉子 (天然物化学教室・特任研究員)

派遣期間 平成23年11月5日〜平成24年3月18日(135日間)

派遣先 University of Bonn

 私は、平成23年11月5日〜平成24年3月18日までドイツ・ボン大学Kekule Institute for Organic Chemistry and BiochemistryのJorn Piel教授の研究室に滞在した。Piel先生は、海洋天然物の生合成分野のパイオニアであり、彼の研究グループは世界でも先駆的な研究成果を挙げている。
 Piel研究室滞在中、私は抗がん剤としての臨床応用が有望視されている海綿由来二次代謝産物の生合成遺伝子クラスターの探索を行った。これまでに、海綿やホヤなどの海洋生物からは数多くの生物活性物質が単離報告されている。このような海洋天然物の多くは、多種多様でかつ複雑な構造を有しており、有機化学的に全合成を行うのは容易ではない。また、産生生物からの化合物の単離・抽出には資源に限りがあるため、その量的供給が問題となっており、これらが臨床応用された例は未だ数少ない。そこで、真の生産菌や生合成遺伝子を明らかにすることは、このような問題を解決する糸口となり得る。海綿由来の二次代謝産物の多くは共生微生物が真の生産を担っていると考えられており、そのほとんどが難培養性である。さらに、海綿には膨大な量の微生物が共生しており、その中からターゲットとなる生合成遺伝子や生産菌を見つけ出すのは極めて困難とされている。Piel先生の研究グループはこのような困難な課題に果敢に挑み、これまでに数々の生合成遺伝子クラスターの同定に成功している。また、近年では生産菌の同定にも着手しており、この分野の研究において世界から注目を集めている。
 Piel研究室は、日本を含め世界各国から集まった5名のポスドクと約20名の博士課程の学生で構成されている。研究室では学生とポスドクがそれぞれのプロジェクトについて互いにディスカッションを繰り広げ、明るい雰囲気の中、日々実験に励んでいる。お昼は、Piel先生を含めた研究室のメンバーで近くの食堂へ行き、他愛のない話題から真剣な研究の話題まで、互いに共有しながら昼食を楽しんだ。Piel研究室は、教授やポスドク、学生の立場に囚われず、それぞれが互いの意見を尊重しあう風潮がある。そのため、研究においてもそれ以外の面においても、各人が堂々と自分の考えを発言している印象を受けた。また、研究室外においてもメンバーと食事やサッカーの観戦などに出掛け、楽しい時間を共にした。研究室のメンバーは、気さくで親切な方が多く、公私ともにお世話になった。不慣れな海外生活で、英語でのコミュニケーションにも苦労したが、彼らのおかげで充実した有意義な時間を過ごすことができた。
 約4カ月半の間、Piel研究室に滞在することができ、様々なことを考え、肌で感じた。まず、研究内容について、直接Piel先生やポスドクとディスカッションすることで、これまでとは違った見方から物事を考える機会を得た。また、彼らは生合成研究を専門としながらも生合成の分野のみにとらわれるのではなく、天然物を幅広い視野で捉えて研究を展開していることに感銘を受けた。研究室のメンバーと接する中で、面白いと感じることや不思議に思う単純な動機が彼らの研究に対する原動力となり、それがどんなに難しいとされる問題であっても腰を据えて果敢に立ち向かう姿勢に頼もしさを感じた。この彼らのチャレンジ精神こそがPiel研究室がパイオニアである所以であると実感したと同時に、彼らの研究のスタンスは現在の私の目標である。限られた期間ではあったが、Piel研究室滞在中、彼らの研究への取り組み方や考え方、また、素晴らしい人間性に触れることができた。これらは日本では得難い貴重な経験であり、今後の研究生活に活かして行きたいと思う。最後に、このような貴重な機会を与えていただいた阿部郁朗教授、ドイツ滞在中様々なサポートをしていただいた脇本敏幸講師ならびに天然物化学教室の皆様に深く感謝致します。また、本プログラムによる支援をいただけた事を感謝すると共に、組織委員の先生方に心から深謝致します。
 

佐々木 栄太 (薬品代謝化学教室・特任研究員)

派遣期間 平成23年12月8日〜平成24年3月20日(104日間)

派遣先 スイス連邦工科大学チューリッヒ校

 本派遣プログラムにより平成23年12月8日から平成24年3月20日まで、スイス連邦工科大学チューリッヒ校(ETH Zurich)のDonald Hilvert教授の研究室に滞在し、研究を行った。ETH Zurichは自然科学分野で過去20人以上のノーベル賞受賞者を輩出しているヨーロッパにおける中心的研究機関の一つである。化学科のあるHonggerbergキャンパスはZurich中心部からバスで20分ほど離れた丘の上にあり、近代的で機能的な建築物とは対照的に、周囲には牛や羊が草を食む牧歌的な風景が広がっていた。このような高い研究実績と魅力的な研究環境によって、世界中から人が集まり日々活発な研究が行われている。
 実際私の在籍した有機化学科 (Laboratory of Organic Chemistry) の教授たちは、その多くがスイス国外の出身で欧米や日本等様々な研究歴を経て、ETHで教育・研究を行うに至っている。また、所属したHilvert研究室を構成する大学院生・ポスドクたち(計20人)も国際性豊かで、その出身国は実に15カ国にも及んでいた。異なる文化を持つ個性的なメンバーであったが、(だからこそ)協調性を重んじる向きも強く、研究室全員でのスキー旅行や、有機化学科クリスマスパーティーなどは特に良い思い出である。中心となって企画してくれた大学院生たちにはこの場を借りて感謝したい。また、ラボメンバーで集まっての夕食会なども頻繁に企画され、お互いをよく知り、研究仲間としての信頼を築くことに役立っていたように思う。さらに、ETHでは全試薬が共通データベースに登録されており、研究室間での試薬の貸し借りが日常的に行われていたため、研究室外の人たちとも自然と知り合いになることができる環境であった。
 このような環境のもと、私は近年Hilvert研究室が力を入れているプロジェクトの一つである、非ウイルス性のタンパク質による機能性高分子の内包とその応用、という研究に取り組ませていただいた。非ウイルス性タンパク質 Lumazine synthase は、154アミノ酸残基からなるサブユニットが60個あるいは180個会合し、巨大なかご上の立体構造を形成することが知られている。Hilvert研究室はタンパク質工学、特に進化分子工学を専門としており、これらの知識と技術を駆使することで、文字通り「進化したLumazine synthase」の会合体を創成し、その内腔に異種タンパク質等の機能性高分子を簡便かつ効率的に内包可能であることを示してきた。それらの結果は、これまでに複数の一流紙に論文発表されているが、私はそこからもう一歩踏み込んで、サブユニットを形成するタンパク質内への化学的または遺伝的な光感受性小分子の導入によって、Lumazine synthaseの会合を外部からの光照射によって調整する手法の開発に取り組んだ。当目的を達成するために、Hilvert研究室に蓄積されたLumazine synthase結晶構造に基づく変異タンパク質のデザイン手法や進化分子工学の技術を習うことはもちろん、 外部の研究者とも連絡を取らせていただき、非アミノ酸のタンパク質内への遺伝的導入法などの技術を学ぶことができた。また、研究期間中Hilvert教授がETH内部・外部の様々な研究者とディスカッションすることで得られた色々な情報やアイディアを提供・提案してくださり、その都度有益な議論ができたことは非常に印象深い。また、当研究に関連したプロジェクトに取り組んでいた私を含む数人のポスドクで、プロジェクトの将来的な方向性について様々な角度から議論・検討し、研究課題を提案する機会に恵まれたこともとても良い経験だったと考えている。
 最後に、本派遣期間中にはETHや隣接するチューリッヒ大学等で研究している多くの日本人研究者の方々に出会うことができたことも付け加えておきたい。化学科に在籍されていた複数の研究者および大学院生たちはもちろん、日本国内ではなかなか交流する機会の少ない、微生物、植物、魚類、ロボット工学や建築に至るまでの魅力的な人々と、異国の地に住む日本人というだけの理由で様々な交流をさせていただき、お互いの研究内容を話し合うことができたことはとても良い刺激になった。 以上のように、本プログラムによる海外派遣によって素晴らしい経験をさせていただき、貴重な人脈を築くことができたと考えている。これらの成果を今後の研究に最大限活用していきたい。このような機会を与えて頂き、海外派遣を支えてくださった関係者の方々に心より感謝いたします。

高橋 直矢 (薬品作用学教室・助教)

派遣期間 平成23年11月25日〜平成24年1月26日(62日間)

派遣先 ベルン大学

 私は平成23年11月25日から平成24年1月26日までスイス、ベルン大学のMatthew Larkum博士の研究室に滞在した。Larkum博士は大脳皮質神経細胞の樹状突起に関する生理学研究をリードしてきた研究者であり、多数の先駆的な研究成果を挙げている。私はそこでの最先端の研究技術およびプロセスを学ぶべく今回の派遣プログラムに参加させていただいた。
 神経細胞の樹状突起は、細胞同士がコミュニケーションをとる場であり脳の情報処理に置いて極めて重要な役割を果たしている。ところが、樹状突起は直径が1ミクロン程度しかなく、その活動を記録することは極めて困難であり生理学的機能についてほとんどわかっていない。Larkum研究室はそうした樹状突起の機能の解明に真っ向から取り組んできた数少ない研究室である。そこには長年の研究によって培われた最先端の実験のノウハウが詰め込まれている。研究室の規模は学生と博士研究員をあわせても6人という少人数でありながら、皆が共通した興味を持ち常に活気に満ち溢れた研究室であった。研究室の内外を問わずあらゆるところで研究の話が持ち上がり、それぞれが自分の研究を心から楽しんでいる様子がうかがえる。Larkum博士はそれら個人の研究やアイディアを尊重し、常にサポートしてくれる。私が研究室に着いたばかりの時に、「よい結果を出すためには、自分が熱中できる研究をしないといけない。研究をたのしむことが一番大切なんだ。」と話してくれたのは今でも深く心に残っている。
 私の場合、オーストラリアから参加している博士研究員の女性がメンターとなり実験技術に関してさまざまなノウハウを教えてくれた。私が教わったのは麻酔下動物からのin vivoパッチクランプ技術と2光子顕微鏡を用いた樹状突起活動のイメージング記録である。これまで脳スライス標本を用いたin vitro実験が大半であった私にとって、生体動物を用いた実験にはしばしば苦戦を強いられた。それでも新しい手技を学ぶことの喜びや好奇心には及ばない。初めての海外生活で英語でのコミュニケーションも拙いものであったが、彼女をはじめとして研究室の同僚たちが親身にサポートしてくれたおかげで充実した毎日を送ることができた。また彼らとの研究生活で、お互いの研究キャリアについて話し合えたのもよい経験であった。博士研究員はみな同世代であったことから、キャリアについても同じような期待や不安をもっている。そうした悩みを相談し、励まし合う仲間ができたことは当初予定していなかった大きな収穫であった。
 また滞在期間にはスイスで開催された学会に参加することや、自分の研究に関連する他の研究室に訪問することもできた。私の参加した「Perspectives of High Power Computing in Neurosciences」という学会では、ヨーロッパ圏内から著名な理論研究者ら集まり活発な議論が交わされた。スイスの理論研究を柱とした大型プロジェクトが走っているが、会議中にはそうしたプロジェクトの予算配分の是非を問うような場面もあり文字通りの活発な議論がなされていた。驚くべきは、こうした議論に私のような博士研究員や学生でさえも積極的に参加していたことだ。議論という文化が歴史的に発達してきたヨーロッパならではの光景かもしれない。皆がそれぞれに自分の意見を持って議論することの重要性を改めて感じさせられた一幕であった。他研究室の訪問では、スイスを拠点として活躍している著名な研究者らを訪ねる機会が得られた。神経生理学という同分野であっても、研究室ごとに工夫された実験アプローチや装置などがある。実際の現場に赴き、そうした生の情報が得られたことは、自分の研究をより具体的にイメージし効率化するのに大いに役立った。
 2ヶ月間という限られた期間であったが、これまでの研究生活で味わうことのなかった貴重な時間を送ることができた。この経験がこれからの研究キャリアに大きな影響を与えたことに間違いはない。帰国して数日経ったが、「とにかく研究をもっと楽しみたい」という気持ちで研究を再開している。Larkum博士が教えてくれたように、きっとその先に良い結果があるはずである。
 最後になりましたが、今回このような機会を与えて頂いた組織的な若手研究者等海外派遣プログラムおよび関係者の皆様に心より感謝申し上げます。

脇本 敏幸 (天然物化学教室・講師)

派遣期間 平成23年10月3日〜12月3日(62日間)

派遣先 University of Bonn

  本派遣プログラムにより10月3日から12月3日までドイツ、ボン大学Kekule Institute for Organic Chemistry and BiochemistryのJorn Piel教授の研究室に滞在した。Piel研究室は海洋天然物の生合成研究において先駆的な成果を挙げており、その研究現場を体感し、構成員と交流を深めることができ、非常に有意義な期間を過ごすことができた。
 海綿やホヤが産生する海洋天然物には抗がん剤などのリード化合物として有望な化合物が多数報告されていながら、常にその量的供給が医薬品開発への壁となってきた。また、海洋無脊椎動物に含まれる生物活性物質の多くが、動物自身ではなく、共生微生物によって産生されていることが長年疑われてきている。これらの諸問題を解決するには、まずは二次代謝産物の遺伝子を突き止める事が突破口となる。
 Piel研究室では海洋天然物の生合成遺伝子クラスターの同定、異種発現系の構築を主要研究課題として取り組んでいる。大学院生10名程度に加え、アメリカや日本からのポスドクが数名加わり、活気のある研究環境を作り上げている。ポスドクたちは生合成、単離・精製等、様々なバックグラウンドを有しながらも、共通して海洋天然物の産生機構に興味を抱いてPiel研究室に集い、若さと知力・体力を結集し困難な海洋天然物の生合成研究に取り組んでいる。折しもほとんどのポスドクが1年以内に研究室に所属したばかりで、短期滞在の私も同時期に参入した仲間として受け入れてくれた。そのためポスドクに戻ったような感覚で非常に楽しい滞在期間を送る事ができた。陸上とは異なる海洋環境、難培養な共生微生物、複雑かつ膨大なメタゲノムなど、様々な難しい課題が立ちはだかる海洋天然物の生合成研究であるが、彼らの果敢なチャレンジ精神は頼もしい限りであった。
 2ヶ月の滞在期間の間、同じドイツ、Tubingen大学のLutz Heide教授、Friedrich Schiller大学のChristian Hertweck教授、イギリス、Bristol大学のRussel Cox教授にもお会いする機会に恵まれ、特にTubingenとBristolでは講演をさせて頂いた。両大学とも天然物化学において非常に長い歴史と伝統を有する大学であり、それを支える教授陣から厳しい質問を受けるとともに、暖かい激励の言葉を頂戴した。ドイツ、イギリスの天然物化学を牽引する教授陣にお会いする機会に恵まれ、天然物化学の未来を深く考える良い機会となった。  この度の海外派遣を快く許して下さり、Tubingen、Bristolでの講演の機会を与えて下さった阿部郁朗教授ならびに長期不在の間ご迷惑をおかけした天然物化学教室のみなさま、そして、このような機会を与えて頂いた組織的な若手研究者等海外派遣プログラム組織委員の先生方に、心より感謝申し上げます。
 

佐々木 栄太 (薬品代謝化学教室・特任研究員)

派遣期間 平成23年9月8日〜12月1日(85日間)

派遣先 スイス連邦工科大学チューリッヒ校

 私は平成23年9月8日から12月1日まで、スイス連邦工科大学チューリッヒ校(ETH Zurich)のDonald Hilvert教授の研究室に滞在し、光を用いたタンパク質の機能制御に関する研究を行った。Hilvert先生は進化分子工学やセレノシステインを用いた数々のユニークな研究を展開しており、近年はワシントン大学のDavid Baker教授らと共に、計算化学に基づいたタンパク質のde novoデザインに関する研究等も行っている。今回の派遣を通じて、Hilvert研究室における最新の研究内容に接し、当該分野における様々なノウハウを学ぶとともに、ヨーロッパの一流ラボでの研究スタイルを直に体験することを目的とした。
 Hilvert研究室は教授を中心として、グループリーダーのPeter Kast 先生、ポスドク、大学院生およびスタッフサイエンティスト等、総勢30名ほどの規模で運営されている。ポスドク・大学院生(博士課程)ともに、世界中から集まった優秀なメンバーであり、それぞれが独立したプロジェクトに取り組んでいた。また、ヨーロッパ各地から書類と面接を経て選考された卒業研究生や修論研究生が、ポスドクや博士課程院生の研究プロジェクトに加わっていた。彼らの中には将来Hilvert研の博士課程へ進学することを希望する者も多く、みな積極的によく実験を手伝っていた。
 研究室の運営方法は日本と比べて大きな違いがあるわけではないが、原則として週2回のグループミーティングがあり、各自の研究成果は長期のまとめが年に1回、短期の実験報告が1カ月に1回程度まわってくるようにスケジュールが組まれていた。報告は全てプロジェクターを用いたプレゼンテーション形式であり、発表途中であってもHilvert先生の鋭い質問が次々に繰り出され、その場で解決法を考えるスピーディーな展開が印象的であった。Hilvert先生は多忙で、ETH外へ出張されていることも多いが、ポスドクや大学院生は早朝や週末等、先生が比較的時間の取りやすい機会を狙って、その場で気軽に研究の打ち合わせを申し込んでいた。また、大学院生・ポスドク間での質問や議論は日常的に活発に行われていた。必要であれば過去の研究室メンバーに連絡をとることもあり、私も勧められて既に卒業しているプロジェクトの前任者にメールで連絡し、実験の詳細についてスカイプを用いて質問をすることもあった。
 また、今回のETH滞在中にHilvert先生の大学院生向けの授業を聴講する機会を得ることができたこともよい経験であった。授業内容は酵素メカニズムを中心とした生物有機化学であり、内容の多くは既に学習済みではあったが、週に1回90分という制約の中で、いかに効率良く体系的に教えるかという点で大変勉強になった。授業は板書とスライド投影の両方をうまく活用しており、要所要所で学生に質問をして、理解と興味が深まるような工夫がされていた。また、特に重要な内容については、実験結果のみならず、その研究を行った人物紹介までされていた。さらに、話すこと、書くこと全てを非常に細かい数値に至るまで完璧に暗記しており、実にスムーズに授業を進行されていたことが、印象的であった。この授業の準備に相当の時間と労力が捧げられたであろうことは想像に難くなく、Hilvert先生が2011年ETHにおけるBest Teaching Awardを受賞されたことは研究室メンバー全員にとって喜ばしいことであったのみならず、納得の結果であった。なお、チューリッヒはドイツ語圏ではあるが、ETH大学院の授業は全て英語で行われているとのことである。
 その他、私の滞在した短い期間だけでも広く有機化学に関連する数多くのセミナーがあり、世界中で活躍されている研究者たちの講演を聞く機会に恵まれた。週に1度の定例セミナーの他、特別講演やシンポジウムなどがあり、Alois Furstner教授(マックスプランク研究所)、Joanna Aizenberg教授(ハーバード大学)、Sarah O’Connor教授(ジョンイネスセンター)等の講演が特に印象に残っている。
 以上、本プログラムによる海外派遣によって、日本国内では得難い様々な経験をすることができた。短い期間と限られた交流ではあったが、ETHの研究者たちの研究内容、研究への取り組み方、考え方の一端を見ることができた。これらの良い点を今後の自分の研究および研究スタイルに活かしていきたいと考えている。最後に、本プログラムによる助成に深く感謝するとともに、このような貴重な機会を与えてくださった関係者の方々に心より御礼申し上げます。

桑原 直之 (蛋白構造生物学教室・特任助教)

派遣期間 平成23年8月1日〜9月30日(61日間)

派遣先 UMR 6204 CNRS, Universite de Nantes

 私が相同組換えにかかわるRad51とその相互作用タンパク質との複合体の溶液構造解析を行うために、平成23年8月1日から9月30日までナント大学付属の研究所(UMR 6204 CNRS)のresearch directorである高橋正行先生で研究を行いました。高橋先生はRad51やRecAの生化学的解析を行っている研究者であり、Circular dichrosim (CD)、Linear Dichrosim (LD)や中性子小角散乱などの手法を用いてリコンビナーゼの溶液中での生化学的研究における著名な研究者です。
 私は最近Rad51と相互作用するタンパク質(Swi5-Sfr1)の結晶構造を決定し、それらタンパク質の複合体構造やRad51活性化機構に注目して研究を行なっています。我々の提唱しているRad51-Swi5-Sfr1複合体構造モデルを検証するためLDによる複合体解析を行いました。
 LDでは溶液中で配向させたタンパク質内の芳香環残基の向きをその吸光波長や吸光度により決定する方法であり、溶液中での構造や構造変化を解析することができる方法です。タンパク質が配向すればどのような試料でも解析することができ、DNA結合タンパクやフィラメントを形成するタンパク質、膜タンパク質などの構造情報をLD測定から得ることが報告されています。Rad51とSwi5-Sfr1は複合体を形成することが明らかになっていますが、Rad51がフィラメントを形成するため結晶化には不向きであるためLDによりRad51-Swi5-Sfr1の複合体構造を決定する目的で研究を行ないました。
 使用するLD用のセルが一ヶ月予定より遅れて納入したり、複合体が予想していたより不安定であったり予想外のことが多く起こりましたが、LD用セルの設置、光学系の調整、トラブル時の対処方法など基礎的なところから学ぶことができ大変有意義な経験ができました。
 また9月27、28日にパリのinstitut de Biologie Physico-Chimique(IBPC)で”New frontier of the research in Rad51 recombinase and its accessory proteins”という会議が行なわれ、参加しました。この会議は高橋先生を含めた共同研究者たちが集まり、今後の研究について話合う会議であり、私は今回の派遣で得られた結果について報告しました。初めての英語での口頭発表でありましたが、無難に終わり、複合体解析をどのように進めていくかについて数多くのアドバイスをいただくことができました。
 海外滞在経験がほとんどないため英語でのコミュニケーションに苦労し、日本とフランスで生活スタイルや文化が違うため戸惑うことが多かったですが、研究所のポスドク、テクニシャン、学生に親切に接していただき、楽しく有意義に研究生活を送ることができました。2ヶ月間という短い間でしたが海外で研究をすることができ、これまでの研究生活を新たな視点で見つめなおすことができました。今回このような貴重な機会を与えていただきました、本プログラムおよび関係者の方々に心より御礼申し上げます。

 

濱崎 純 (蛋白質代謝学教室・助教)

派遣期間 平成23年6月17日〜8月28日(73日間)

派遣先 Laboratory of Norbert Perrimon, Harvard Medical School

 私は、平成23年6/17-8/28日の間、Harvard Medical School Department of GeneticsのNorbert Perrimon研究室に滞在し、研究を行った。正確には、Perrimon研の隣のDRSC (Drosophila RNAi Screening Center)に滞在したのだが、この部門はNorbertが最終的な責任者であり、研究室もつながっていることから、実質一つのラボとして運営されている。まずNorbert研について紹介すると、ハエを用いた発生学的研究を基本に、近年はゲノムワイドなRNAiなどを用いたスクリーニングにより、様々な生物学的現象について精力的な研究を行っている。DRSCは、ハエ培養細胞を用いたRNAiスクリーニングを網羅的に実施・解析する、世界中の研究者に開かれたオープンな機関である。DRSCホームページ上のPublication listを見れば明らかだが、非常に質の高い多くの論文にデータを提供している。また、Norbertの妻のLiz Perkinsが作製しているRNAi系統ハエ(TRiP)の管理もDRSCで行なっている。 短期の滞在という事で、何をどれくらいできるか全く予想できなかったが、いくつか持っていったハエの系統についてTRiP系統との交配により、遺伝学的なスクリーニングを行なうとともに、様々なノウハウを吸収し、ハエ研究における最先端のラボ運営や研究姿勢について学ぶ事が主な目的であった。
 Norbert研の質の高い研究を支える秘訣について、よく観察をして気づいた(驚いた)ポイントについて、以下紹介する。  まずは、ポスドクが大勢(20人弱)いて、皆が優秀である。一流紙に論文を出している事が必要条件の様に全員が前のラボで立派な論文を持っていて、さらに、PhD取得後すぐのポスドクと2-3ラボ目のシニアポスドクが半々くらいの構成である。彼らは共通してハエ研究者であるが、扱うテーマや生物学的現象はバラバラである。独立を目指した野心的な彼らが名を挙げるためにPerrimon研でRNAiという強力なツールを使って多様な技術、視点から研究を進めている。また、多くのポスドクにテクニシャンや学生が1-2人つくことで、ポスドクはより繊細、クリエイティブな作業に集中している。
 次に、ラボマネージャーやテクニシャンがラボを切り盛りしている。ラボマネージャーは非常にタフに働き、ポスドクへハエの系統や実験材料を迅速に提供している。また、雑用や実験についての相談などもこなし、まさに大車輪の活躍である。非常に知識も豊富である事から、まるで賢者のような印象を受けたほどである。試薬や消耗品の管理も彼らが行なうが、代理店が存在しないため、よりシンプルでスピーディーな管理が出来ているようである。
 そして、Norbertと強力なコラボレーターである。Norbertは大変忙しく、ほとんどラボにはいないが、ポスドクとは不在時はメールで連絡を取り、ラボでは頻繁にdiscussionをしている。また、即断即決という印象で、とてもスピーディーである。実際にdiscussionしたときも、すぐさまアイディアを出してロジックを組み立てる瞬間を目の当たりにして、感動した。好奇心旺盛で、自身がエキサイトして周りをやる気にさせるタイプと言える。また、近隣の超一流ラボなどとも頻繁に共同研究する事で、とても気軽に強力な研究体制を築ける環境を整えている。これはHarvard Medical Areaの一流ラボが共有するネットワークの強みである。DRSCも一種のコラボレーションで、Norbert研でRNAi実験をすることになると、全遺伝子のdsRNAが手元にあるのみならず、細胞ベースでのハイコンテントアナリシスからコンピューター解析までそれぞれのエキスパートが迅速に協力してくれ、ヒットした遺伝子についてはRNAi系統ハエもすぐに出てくるというシームレスな環境を備えている事は強力な武器である。
 最後は、システムの効率化である。多くのポスドクは夜遅くまで働くという事は無く、18時過ぎにはいなくなり、休日は人もまばらである。Norbert自身も17時前には帰ることが多い。DRSCは実は非常に少ないスタッフで運営されており、コアとなるのは2人のスタッフのみである。彼らが自動分注機や解析機を一括して使用・運営する事で、dsRNAが入った384プレートがフリーザーに常に保存されていて、世界中から集まるスクリーニング希望者は自分が持ってきた細胞をプレートにまき、数日後に解析装置のパラメーターを指定するだけである。つまり、数日の滞在でゲノムワイドなRNAiスクリーニングが完了してしまうのである。その後は非常に経験豊かなスタッフがパラメーターの最適化やコンピューター解析について迅速に対応する。これは、RNAiスクリーニングや培養細胞でのハイコンテントスクリーニングを自前で行なおうとしている日本の研究者(や学生)には涙が出るほどうれしい体制であろう。これは一例であり、分業を明確にし、ラボを効率的に運用する事で、大変大きな果実を皆でシェアしている場面が様々な場面で見られる。
 以上の特徴を実際に目の当たりにし、興奮する頃には留学期間は終盤を迎えていたが、彼らと直接話をする事で、ハエ研究の幅広さや利点が骨身に沁みて理解でき、とても刺激になった。実際に身につけた実験手法はあまり多く無かったが、効率的なラボ運営や多様な生物学的テーマ・手法など、ラボに数日滞在するだけでは手に入らない、得難い知識や経験を吸収することができ、今後の自分の研究人生は非常に大きな影響を受けた事は間違いない。そして、日本の研究レベルは間違いなく高いという私の認識は揺らぐことはなかったが、彼らの「サイエンスを純粋に楽しむ、人生も楽しむ」という姿勢を前に、日本の研究環境はともするとテクニシャン養成所になりかねないなと反省させられた事も忘れずに報告したい。
 最後に、本プログラムによる支援をいただけた事を感謝するとともに、機会を与えていただいた組織委員の諸先生方や不在の間迷惑をかけたラボメンバーに心より御礼申し上げます。
 

草間 真紀子 (医薬品評価科学教室・助教)

派遣期間 平成23年6月4日〜8月20日(70日間)

派遣先 (1) 米国医薬食品局 (Food and Drug Administration; FDA)
(2) 27th ICPE: International Conference on Pharmacoepidemiology & Therapeutic Risk Management

 本派遣プログラムにより6月4日から8月12日まで米国医薬品食品局(Food and Drug Administration; FDA)に外国人研究者として滞在し、8月14日より17日まで国際薬剤疫学会年会(International Conference on Pharmacoepidemiology & Therapeutic Risk Management)に参加しポスター発表した。 FDAは米国保健社会福祉省(Department of Health and Human Services; HHS)に属する機関であり、医薬品のみならず食品について統括する規制当局である。FDAで医薬品の承認審査を行うCenter for Drug Evaluation and Research Organization (CDER)の中でも医薬品の臨床薬理分野の審査を担当するOffice of Clinical Pharmacology (OCP) に滞在した。DirectorであったDr. Larry Leskoの退官直前に到着し、Deputy DirectorであるDr. Shiew-Mei Huangの元に滞在した。10週間という滞在期間は決して長くないため、研究だけでなく、規制当局としての実務、企業との意見交換、医薬品規制に関するビジョン、人材育成、と幅広くフォーカスすることとした。研究に関するディスカッションのみならず、会議やディスカッション、ワークショップや、FDA主催のadvisory committee(抗がん剤の適応取消、新規糖尿病用薬承認に関するもの;いずれも公開)を傍聴した。 ワシントンDC郊外にある広大なWhite Oakキャンパスに、シャトルバスとメトロで通った。Office of Clinical Pharmacologyには150人程度の審査官と20人程度のfellowが所属し、審査官の2/3がPhD、1/3がPharmD、それに少数のMDで構成されていた。PhDとPharmDやMPHをダブルで習得している人もいた。職歴は多様で、フェローを経て採用される人もいれば、医療機関、製薬企業や公的な研究機関から転職した審査官もいた。コアタイム以外の勤務時間は人それぞれであり、早い人は6:30に出勤していた。概して在宅勤務が好まれるなど、ワークスタイルの多様性に驚いた。もう一つの多様性は人種にあった。東アジア系やインド系、南アメリカ、欧州出身の審査官やFellowと話す機会が多く、食堂で中国語にて話しかけられた時には東アジア系民族の類似性を肌で感じた。 滞在中に最も驚いたのは、「われわれはただの審査官ではなくscientistでもある」という誇りを審査官が持っていることである。研究計画書を提出し研究予算を獲得しポスドクを雇う、というまるで研究機関のようなシステムにも驚いた。ただ人員を増やすのではなく必要ならば適切な人材をリクルートして増員してきた経緯も何人からも聞いた。医薬品に関しFDA以上の影響力を持つ規制当局は無い。Office of Clinical Pharmacologyの審査官は総説以外に学術論文も執筆し、臨床薬理分野の学会の幹部を務め、著名な学術雑誌の編集委員をしていることからもこれは伺える。その背景には、歴史、法律、制度、さまざまな側面があることは知っていたが、初めて点が線で結ばれた。 医薬品の規制に関しては、当局も企業も、限られた情報と多くの不確実性のなかで、どのようなルールでリスクを最小化するかという共通目標がありながら、正解のある課題ではない。正解のない課題の判断を支援するために、薬物動態の枠を超えてpharmacometricsやsystems biologyが発達してきた状況、そして日本とのギャップが理解できた。科学には国境はないが規制には国境があり、そこが面白いところでもある。科学には国境はないが、科学の発展には国境がある。科学は需要がなければ発達しない。あるいは、科学者は時代を先取りし社会から需要を感じ取り、科学を発展させ、時には規制の流れを作っていく力や責任を持っている、とい見方をすべきだろう。社会のニーズが科学のニーズとなり、研究費が充てられ、研究と人材が発展し、「科学ってスゴイ」という感動以上に医薬品や技術、産業の振興として社会に還元される流れを目の当たりにした。また、現状の枠組みの問題点を見つけてフィードバックする自律的な精神があるだけでなく、解決法を提案し、時には国境を越えた協力体制でもってそれを実行できる組織であることがFDAの底力と感じた。 シカゴで開催された国際薬剤疫学会は1000人近くが参加する大会となった。米国に次いで、オランダや台湾、韓国からの参加者も多かった。アカデミアよりもむしろ企業や研究機関からの参加が多いように思えた。Intensive Education Program by Community Pharmacists to Improve Adherence to Self-Management in Type 2 Diabetesという表題のポスター発表をしてきたが、残念ながら本質的議論はなかった。最近のトレンドとしてレセプトや電子カルテ等のデータベースに関するセッションや質問が多く、日本のレセプトデータベースを利用した研究の広い可能性を実感した。また、シカゴでは、2003年に短期滞在した米国薬学教育協議会を訪問し、PharmD教育や卒後教育のクォリティコントロールについて情報交換できた。 サリドマイド薬禍を契機として成立し、医薬品承認要件の根源を成すKefauver-Harris Drug Amendmentsの成立から約50年が経過しようとしている。現況に満足せず、医薬品の有効性と安全性の不確実性に真摯に向き合い、内外からの批判や協力を糧にして前進するFDAの姿をこのたびの訪問で見たのちに、シカゴの国際薬剤疫学会ではサリドマイド薬禍のインパクトを再確認できた。医薬品開発や使用の門番として規制当局やアカデミアの果たすべき役割について考えさせられ、日本の研究者や研究倫理に対する信頼感も感じる一方で、人材、規制、そして一部の科学領域がガラパゴス化している現状も目の当たりにした。短期派遣では経験し得ない交流も可能で、審査官・研究者のトレンドやキャリアパスを知り得たこともこの長期派遣制度の賜物である。滞在中お世話になった方々に感謝申し上げると同時に、長期不在を許して下さった教室のみなさま、そして、このような機会を与えて頂いた組織的な若手研究者等海外派遣プログラム組織委員の先生方に、心より深謝いたします。

 

駒川 晋輔 (基礎有機化学教室・JSPS特別研究員PD)

派遣期間 平成23年5月18日〜7月18日(62日間)

派遣先 Emory University

 今回,私が行ってきた研究について理論的観点からの解析を行い,反応の起源や選択性などについて新たな知見を得る事を目的として,諸熊先生の指導のもとに研究を行いました。  研究室は一つの広い部屋がブースによって仕切られていて,各個人のデスクが割り当てられています。同じフロアには諸熊研究室だけではなく,いくつかの理論化学の研究室が同じ部屋に混在しており,研究室を越えてのdiscussionも時折行われていました。また,実験系の研究室とは異なり,装置などの音がないため研究室内は静かで,研究時間中は皆集中して自分の仕事に取り組んでいる事が印象的でした。  諸熊先生は京都大学の福井謙一記念研究センターのリサーチリーダーも兼任されており,週一回のグループミーティングではビデオチャットを通じて福井センターのメンバーも交えて活発な議論が行われました。福井センターのメンバーを含め,ほとんどが外国人であるために,当然議論は英語で行われています。発表は質疑応答も含めて30分ほどで,発表途中でも質問が飛び交う積極的な姿勢が伺えました。また,発表者に対し質問者も指名されており,どんな些細なことでも必ず質問しなければならないというスタンスが築かれていました。私も二度程,慣れない英語ながら発表させて頂きましたが,皆真剣に話を聞いて質問して頂いたことが印象深かったです。私の研究とは分野も違うところが多く,難しい点も多数ありましたが,異分野の研究に触れる事ができ大変勉強になりました。グループミーティングの前には皆でピザを食べる事が通例となっており,そのような場面を通じても研究室のメンバーとの交流を深める事ができました。  2ヶ月という限られた期間でしたが,海外の研究機関の一端に接する機会を得られた事は自分にとって良い経験となりました。長期の海外経験の無い私にとって英語でのコミュニケーションには苦労しましたが,皆優しく接してくれ,様々な面でサポートして頂いたことに感謝しています。この経験を今後の研究活動に活かし,更なる研究の発展に努めていきたいと思います。最後に,今回このような貴重な機会を与えて頂きました本プログラムの関係者各位に心より御礼申し上げます。

 


関根 清薫(遺伝学教室・博士課程3年)

派遣期間 平成24年3月7日〜平成24年3月13日(7日間)

派遣先 53rd Annual Drosophila Research Conference, Chicago

 被派遣者は53rd Annual Drosophila Research Conferenceにおいて、大学院における研究成果 ”Nucleotide sugar transporter Meigo regulates both dendrite and axon targeting of synaptic partners through Ephrin signaling in the olfactory system” について口頭発表を行い、研究内容を世界に発信した。また、専門的な知識を持つ海外の研究者の意見を聞く機会を得て、有用な研究資材の情報を教えて頂けただけでなく、今後の研究の方向性についても貴重な助言を得ることができた。更に、当学会においてショウジョウバエを用いたさまざまな分野の研究の話を聞き意見交換をすることで、知識を広めて今後の研究の応用性や発展性についても新しいアイディアを得ることができた。
 また、シカゴのNorth Western大学にて神経電気生理学を行う研究室を見学し、最先端の研究に触れ刺激を受けた。この出張で学んだ技術及び知識を用いる事により、今後の研究の発展に大いに役立てることができると考えられる。
 
学会の会場となったホテル     North Western大学の研究室と留学中の友人 

武石 明佳(遺伝学教室・博士課程3年)

派遣期間 平成24年3月4日〜平成24年3月13日(10日間)

派遣先 ・ Prof. Piali Sengupta lab, Dept. of Biology, Brandeis University ・ Assistant Prof. Mark Alkema lab, Dept. of Neurobiology, Umass Medical ・ 2012 Annual Drosophila Research Conference (2012 ADRC)

 被派遣者・武石明佳は、ショウジョウバエを用いて、組織傷害に対する生体防御応答、特に、表皮の傷害時に認められる全身性の応答に注目している。今回、ショウジョウバ エを用いる研究者の多くが参加する2012 Annual Drosophila Research Conference(7-11, March, 2012 at Chicago)に参加し、ポスター発表や、cell death workshopで口頭発表を行うことによって同分野・他分野の研究者と活発な議論を行い、研究内容を発展させた。Workshopの発表では、同分野の研究者に興味を持って頂き、共同研究を行う申し出をいただいた。
また、C. elegansの感覚刺激を感知する仕組みの研究のエキスパートであるSengupta教授(Dept. of Biology, Brandeis University)、Alkema準教授(Dept. of Neurobiology, Umass Medical)と研究内容についてのディスカッションを行い、両研究室においてセ ミナー発表を行った。これらのディスカッションやセミナーで、無脊椎動物に共通の、外部刺激に対する応答機構についての知見を得ることができ、研究内容や実験についての助言を多く得られた。Umass Medicalで行われたC. elegans meetingに参加し、C. elegans meetingの遺伝学的手法用いた、プロテオミクス解析の最先端の方法について学ぶことができた。 本派遣によって、研究者同士のネットワークを広げ、武石の研究を発展させる建設的なコメントを多く得ることができたため非常に有意義だった。
 
学会中のランチ風景(National Tsing Hua Uni. の大学院生と)   Umass Medicalの外観

張 驪駻(天然物化学教室・学部4年)

派遣期間 平成23年12月2日〜平成24年3月10日(100日間)

派遣先 Shanghai Institute of Organic Chemisty, Chinese Academy of Science

 中国科学院・上海有機化学研究所(SIOC)に3ヶ月間、共同研究実施のため本プログラムの支援をいただき、ありがとうございました。派遣を決定していただいた阿部先生や関係者の皆様に深くお礼を申し上げます。今回の派遣は、SIOCのWen Liu 先生の研究室との共同研究を行うためであり、呼吸鎖阻害効果が知られているantimycinという化合物の生合成機構の解明を目的としたものです。Wen Liu研究室の強みである放線菌のin vivo解析や遺伝子操作などを学ぶ事ができ、また代謝産物の分離同定など、天然物化学に欠かす事のできない実験手法や技術などを学ぶ事ができました。同じ実験をするにしても、細かい操作や方法に違いがあり、普段何気なく行っている実験を見直し、深い理解をするよい機会にもなりました。
 現地の学生との交流も大変刺激を受けました。SIOCの研究室は教授の下で大学院生とポスドクが学び、技術員が補佐する形となっていますが、学生は論文を良く読み、常に研究の方向性や将来成し遂げたいことを考えていたのが印象的でした。これまで私は習得しなければならない実験技法を覚えることに追われていましたが、今後研究者として新しい発見を世に問うためには将来の方向性や解決すべき課題に対し今よりもさらに敏感になる必要があると強く感じました。技術員も専門知識が豊富で、実験スピードや質が高く、研究室に欠かせない存在でありました。驚いたことに、SIOCの学生は学費が無料でさらに給料をもらっており、国として科学研究を推進するという姿勢に心強さを感じました。
 今回の派遣で得られたもう一つの収穫として、海外からの新しい視点を得られたことです。外と比較することで初めて、東大での実験マナーや設備の保守、機器の充実度などが大変優れていることを実感できました。また、研究室のメンバー一人一人と深く交流することで、人々の価値観の違いや人生観の違いなど異文化理解も深まりました。多様な価値観を理解し様々な視点をもつことは、今後日本やアジアを代表し世界をリードするために欠かせないことですが、大学院に入学する前にこのような経験を積めたことに大変感謝しています。現在は東大に戻りましたが、この恵まれた環境で研究を進められることに感謝し、思考のレベルを高められるよう今後も努力を重ねていきたいと思います。

張 ジュンウェイ(生体分析化学教室・博士課程3年)

派遣期間 平成24年2月4日〜平成24年3月2日(8日間)

派遣先 Biophysical Society 56th Annual Meeting GB

 私はこの度、アメリカサンディエゴで開催された米国生物物理学会の第56回年会に参加し、発表および情報収集を行ってきました。本学会は生物物理分野で世界最大規模の学会であり、アメリカ国内のみならず、世界各国から7000を超える参加者が集り、非常に活発な議論が行われました。私は2月29日に2時間にわたりポスター発表を行いました。私の研究に関心を持ち、聞きに来られた参加者と有意義な議論ができました。私自身の発表だけでなく、様々な最先端の研究発表を聞けて、さらなる知識の向上につなげることができました。今回の学会で得られた成果は研究の発展の糧となると考えています。
 また、学術的な発表以外に、キャリアについてのworkshopなどもあって、将来を考える上でのいい見解を得ました。印象的なのは当学会一番の目玉講演、Steven Block教授によるNational Lectureの後に行われた懇親会です。日本の懇親会と全く違って、ロックの音楽が流れ、昼間に真面目に科学を語っていた人々は全く別の姿で飲んだり踊ったり、まるでバーかディスコの雰囲気でした。それを見ると、生きる姿勢や仕事と遊びのバランスなど、いろいろ考えさせられて、とても興味深いでした。
 本学会への参加にあたり、「組織的な若手研究者等海外派遣プログラム」による支援をいただいたことに感謝申し上げます。

柳平 貢(医薬政策学講座・学部4年)

派遣期間 平成23年11月10日〜平成23年12月10日(31日間)

派遣先 Oxfam GB

 今回、私は世界的な活動をしている非政府機関であるOxfam GBを訪問し研究の議論をし、実際の活動にも参加してきました。Oxfamの前身はイギリスで1942年に立ち上げられた「オックスフォード飢餓救済委員会」(Oxford Committee for Famine Relief)で、設立当時から世界の飢餓問題の解決に取り組む歴史あるNGOです。現在ではOxfamは貧困地域への食料や医薬品の提供に加え政策提言なども行っており、その活動は100以上の国で展開されています。またOxfamは市民からの寄付品を販売するチャリティーショップをイギリス中に約700店舗展開しており、売り上げは人道支援費などに充てられています。
 私はオックスフォードにあるOxfamのHead Officeを訪ねました。今回私は主にアドボカシー部門の担当者数名と面会し、国際NGOの運営や製薬企業との関わり方に関してディスカッションをしました。特に「見捨てられた疾患」(neglected diseases: ND)を専門に国際提言を行っているDr. Mohga Kamal-Yanniと面会した際には、NDに対する医薬品開発を企業に促すためのインセンティブについて私から質問し議論しました。Oxfam Japanが彼女のbriefing paperを翻訳・リリース(http://oxfam.jp/2011/12/post_448.html)する際に私もその一員として参加しましたので、不明だったことなどを含め有意義な議論をする事ができました。写真は実際にディスカッションしたHead Office内のカフェです。特に本年2012年の薬事法改正で日本への導入が予定されている、US-FDAで先行している「優先審査保証」(Priority review voucher: PRV)に関しては、PRVを取得した企業の知的財産権保持の問題やそれに対するNGOならではのアプローチ方法など、国際的に活躍する研究者の見知に触れることができました。現在でも、メールを通して研究に関するアドバイスを頂いています。
 また、Oxfamのチャリティーショップの活動に実際に参加させて頂く機会もありました。こうしたショップは地域に根ざしたコミュニティーとしての側面が強く、国際的な医薬品問題などについて市民に問題提起する場としても機能しています。顧客は商品の購買を通じて世界の医薬品問題に目を向ける機会を得ることができるようになっており、そうした草の根的な活動が世界で活躍する巨大なNGOを支えているという事実に、大変感銘を受けました。
 最後になりましたが、このような貴重な機会を与えて頂いた本プログラムに対し、深く感謝申し上げます。

相田 健佑(分子薬物動態学教室・修士課程2年)

派遣期間 平成23年11月3日〜平成23年11月10日(8日間)

派遣先 The 62nd annual meeting of the American Association for the Study of Liver Diseases The Liver MeetingR 2011

 今回、アメリカ合衆国のサンフランシスコで行われたThe 62nd annual meeting of the American Association for the Study of Liver Diseases The Liver MeetingR 2011に参加してきました。AASLDは肝臓学研究の最前線に立つ大学、医師、企業の研究者が集い、肝臓学に関する研究の発表・知識の交換等を行うことにより、肝臓学に関する研究の進歩を図る国際学会であり、活発な議論がされていました。
 私は研究室で行ってきた、胆汁酸トランスポーターであるBSEPの細胞膜上での発現制御における、翻訳後修飾であるユビキチン化の役割の検討という研究成果をポスター形式で発表しました。BSEPの細胞膜上からの内在化因子としてユビキチン化が重要な働きを果たすということを明らかとした当研究成果は、胆汁酸トランスポーター研究の中でもいまだ報告の少ない翻訳後の制御に注目したものであり、学会の中でも少ない部類の分野でした。そのため様々な異なるバックグラウンドを持っている人たちがポスターを見に来たことで、それぞれ違った質問を受けることができ、また全ての内容を簡潔に説明するという要求に答えるということも、自分にとってとても良い訓練になりました。大学の研究者、企業の研究者、医師によりそれぞれ着目する視点が異なることを、身を持って経験できたのは良かったです。
 この学会で得られた経験は自分の今後の研究にとって励みになり、研究を進めて成果を出して再度発表する機会を持てればと思わせるものでした。 最後に、このような貴重な機会を与えてくださったプログラム関係者の皆様に厚く御礼申し上げます。

宇治田 早紀子(薬品作用学教室・修士課程2年)

派遣期間 平成23年11月11日〜平成23年11月18日(8日間)

派遣先 41st Annual Meeting of the Society for Neuroscience(第41回 北米神経科学会)

  Annual Meeting of the Society for Neuroscience(北米神経科学会)は、神経科学の分野において最大規模の学会である。各分野の最先端をリードする各国の科学者たちが集まり、活発に議論を交わす場であり、若手研究者にとっては最新の情報を収集し、自分の研究をアピールするチャンスとも言える。私は、本派遣プログラムを通じて、ワシントンDC(アメリカ)にて開催された第41回北米神経科学会に参加した。
 第一の成果は、最新の研究発表を見聞きできたことである。私は、グリア細胞の一種であるアストロサイトの、情報伝達における役割を中心として研究を行っている。この分野は今がまさに創世記であり、シンポジウム、ポスターのどれをとっても刺激的で新しい報告ばかりであった。特に、この数年間で一気に盛んになったoptogeneticsを用いた研究が相次いでおり、分野のめまぐるしい進展を実感した。
 また、本学会において、私は自身の研究をポスター発表する機会にも恵まれた。研究内容は、アストロサイトの活動の指標として用いられる細胞内カルシウム濃度変動(以下カルシウム活動)の大規模イメージングである。長期・大規模イメージングによって始めて明らかとなった反復性のカルシウム活動パターンを発表し、その空間的・時間的特徴と薬理学的プロファイル、そして高倍観察による突起部位のカルシウム活動について報告した。ポスター発表時に生理学者の他、シミュレーション分野や細胞培養系の研究者と話すことができ、数々の有用なアドバイスを得ることができた。現時点における自分の研究の立ち位置や、これからの研究を進めるべき方向性に関して、深く考えるきっかけとなり、研究を続けるにあたってモチベーションとなった。
 自分あるいは他の研究者の発表においての醍醐味は、数々の優れた研究を送り出している研究者や自分と同じ立場の若手研究者と交流できることである。今回、他の学会で出会った若手研究者や論文で何度も名前を目にする研究者たちと交流を深めることができ、国際的なコミュニティーに参加できることに大きな喜びを感じた。また彼らに自分の研究をアピールできたという点で、成果の大きい学会だったと感じている。
 本学会の参加にあたり、「組織的な若手研究者等海外派遣プログラム」による支援を頂いた。この場を借りて、このような貴重な機会を頂いたことに心より感謝したい。

前田 和哉(分子薬物動態学教室・助教)

派遣期間 平成23年10月15日〜平成23年10月22日(8日間)

派遣先  17th North American Regional Meeting of ISSX (International Society for the Study of Xenobiotics), Atlanta, GA, USA

 ISSX(国際薬物動態学会)は、薬物動態領域においては最も規模の大きな学会組織であり、特に北米地区の年会は、他の地区と比べて規模が大きく、動態研究が活発な北米地区のみならず、アジア・ヨーロッパからの参加者も多いことから、当該領域に属する研究者にとっては非常に重要な学会の1つとして捉えられている。自身も今回で通算4回目の参加となった。
 本学会においては、薬物動態領域を取り巻く最新のトピックスが常に話題にのぼっており、今回の学会では、まず薬物動態研究の王道である薬物間相互作用の予測法の進展や薬理遺伝学的なヒト臨床データのupdatesならびにin vitroデータからの予測に関する話題が取り上げられ、ますますヒトにおける薬物動態予測の臨床上の重要性に重きを置いた発表が目立った。私は、ポスター発表として、トランスポーターを介した臨床薬物間相互作用をいかにして定量的に、かつfalse-negativeな予測を避けて見落としなく予測するかという方法論について、種々、予測を行う上での仮説について検証したデータを発表し、特に企業の創薬研究者と、実際の企業での予測法の運用に関することを含め、活発な討論をすることができた。海外のグローバル企業の研究者との討論は、私のようにアカデミックしか経験のない研究者が、いかにして創薬現場に役に立つ知識を返していくかという研究を進める上で、現場のニーズを目の当たりに知ることができる貴重な機会であると感じた。それ以外には、病態時など様々な状況下でのトランスポーター・代謝酵素の発現変動に関するシンポジウムや、mRNAの転写調節以外のトランスポーター・代謝酵素の発現調節機構(タンパク質の細胞内ソーティングなど)に関するシンポジウムなど、旧来より複雑な機能調節系に関する話題が多くなったのを強く感じた。また、全米で行われているファーマコメタボロミクス/ファーマコゲノミクスに関する大規模臨床研究の結果など、国家規模で薬物動態・毒性研究が進展している様も目の当たりにすることができ、今後の薬物動態研究の目指す大きな方向性を十分に知ることができた。また、偶然にも、昨年、本助成(中長期派遣)で行ったオランダがんセンターの研究室の学生とも会ったり、米国の製薬企業と共同研究の打ち合わせを学会の合間に行ったりと、いろんな人的交流も多くあり、学会そのもの以上に実り多き派遣となった。最後に、このような貴重な機会を与えていただきました本海外派遣プログラムおよび関係者の方々に、心より御礼申し上げます。
 

富永 綾(臨床薬学教室・修士課程1年)

派遣期間 平成23年11月11日〜平成23年11月18日(8日間)

派遣先  米国 Neurosceince 2011

 2011年11月12日から16日の5日間、アメリカ合衆国のワシントンDCにて、Society for Neuroscienceの主催する学会Neuroscience2011が開催された。私たちの研究室からスタッフ2名と私を含む学生4名が、研究結果の報告のためのポスター発表と情報収集のために参加した。私の発表は14日の午前中に行い、様々な国籍の研究者と意見交換を行った。見に来てくれた研究者は研究内容も様々で、内容の近い研究をしている研究者からは、深い指摘や現在困っていることに対するアドバイスもいただいた。内容の遠い研究をしている研究者からは、普段当たり前に思っているがわかりにくい部分や広い視点からの意見をいただき、視野が広がり今後の研究に生かしていこうと思っている。また、発表以外の日においても、普段触れることのない内容を知ることができ、非常に有意義であった。

諸橋 雄一(臨床薬学教室・助教)

派遣期間 平成23年11月11日〜平成23年11月18日(8日間)

派遣先  米国 Neurosceince 2011

 第41回米国神経科学会年会が11月12?16日の日程で、ワシントンD.C.にて行われ、我々の研究室は研究成果をポスター発表するため、スタッフ2名、学生4名の計6名で参加した。毎年3万人以上が参加する大規模な学会であり、これまでにも個人的には2度目になるがそのスケールには毎度圧倒されてしまう。自分が関連する分野の口頭発表(nanosymposium)セッションとポスターセッションの時間が重なる事が多く、会場が広いため移動もかなり大変であった。私個人の発表は14日の午前中に行われ、様々な国籍の人から質問やコメントをもらうことができ今後の研究方針を決める上で大いに参考になった。また、そのようにしてコメントをくれた人と交流ができその人のポスター発表を見に行って内容の説明を受ける事で、これまで近いながらも知識の浅かった研究分野に関して理解を深める事もでき、それもまた非常に有意義であった。学会期間中はアメリカ留学中のラボ卒業生との食事会等も開かれ、旧交を温めつつ海外留学事情などの情報交換などしながらテーブルを囲み、楽しい一時を過ごした。

尾崎 孝爾(基礎有機化学教室・修士課程1年)

派遣期間 平成23年8月15日〜平成23年9月16日(33日間)

派遣先  ケンブリッジ大学

 私は、本プログラムに採用いただき、金属ナノパーティクルの合成法、解析法、並びに、その基礎理論習得を目指し、ケンブリッジ大学 Andrew. E. H. Whetley 研究室を訪問する機会を頂いた。標記期間において、新規触媒開発および新反応設計への基礎技術習得と初期検討を行い、ディスカッションを重ねてきました。現在、本研究科において、金属ナノパーティクルを用いる新しい分子変換反応の開発に挑んでおります。
 私はこれに加えて、異文化における研究生活、社会文化的な差異を経験することで、独創的な思考法、特異的な技術手法、本国では未だに成し得ていない欧州流の倫理観という日本では風聞しかしたことのない価値観を見聞することができました。
 今後はこれらを糧に、本国には存在しないような進取の気概に富んだ発想を得る事に傾注、研鑽し、自身の国際色豊かで幅広い研究を今後とも目指すとともに、一連の経験やノウハウを次代の日本の未来の一翼を担う諸後輩方に相伝することに勇往邁進することとしたいと強く考えています。

桝田 祥子(ファーマコビジネスイノベーション教室・特任講師)

派遣期間 平成23年8月13日〜平成23年8月18日(6日間)

派遣先  27th International Conference on Pharmacoepidemiology and Therapeutic Risk Management

 27th International Conference on Pharmacoepidemiology and Therapeutic Risk Management(アメリカ合衆国シカゴ)に参加し、学会2日目(8月15日)に、演題 “Prescription Trends for Oral Antihyperglycemic Drugs (OHDs) in Japan -The Influence of Drug Interaction Alerts Concerning Hypoglycemia in Using Dipeptidyl Peptidase-4 (DPP-4) Inhibitor”について、ポスター発表を行った。本発表がなされた”Drug Utilization Research”のセッションにおいては、糖尿病薬の他、高脂血症薬、抗生物質、向精神薬などに関し、各国各地域(米国、カナダ、英国、仏国、スイス、北欧諸国、ブラジル、ロシア、ボスニア・ヘルツェゴビナ等)の病院、薬局における処方の傾向を様々な視点(副作用、併用薬、保険適用、地理、民族等)から分析した結果が発表されていた。
 本国際学会は、薬剤疫学分野の最も大きな学会の一つで、今回で27回目の開催であった。個別薬剤に関する疫学評価の報告はもとより、最先端の疫学的解析手法、アドヒアランス向上のための施策、ワクチンの有用性に関する議論、バイオマーカーを用いた薬剤評価における政府の取り組み等々、医薬品の適正使用に関し、幅広いトピックを扱っており、大変勉強になった。

飯塚 怜 (生体分析化学教室・特任助教)

派遣期間 平成23年10月1日〜平成23年10月8日(8日間)

派遣先  The 15th International Conference on Miniaturized Systems for Chemistry and Life Sciences

 私は、この組織的な若手研究者等海外派遣プログラムにより、10月2日から6日まで米国ワシントン州シアトルで開催されたThe 15th International Conference on Miniaturized Systems for Chemistry and Life Sciences(μTAS2011)に参加した。本会議は、半導体微細加工技術の化学・バイオ・医療への応用を目的としたマイクロデバイス・システムの研究開発に関する国際会議である。この分野では世界最大規模の会議であり、1,000人以上の参加者を集める盛会であった。私は今回が初めての参加であったのだが、まず驚かされたのは日本人参加者・発表者の多さであった。日本人参加者・発表者の数は米国に次いで2番目に多く、この分野における日本人研究者のアクティビティーの高さを再認識させられた。
  本会議では、6件の基調講演、約100件の口頭発表、約600件のポスター発表が行われた。口頭発表は3つのセッションが並行して行われ、会場を渡り歩きながら、自身の研究に関係するセッションに参加した。いずれのセッションにおいても、最新の研究成果が発表され、大変勉強になった。また、普段論文を読まない分野の発表から、自身の研究に役立つ情報を得ることができた。ポスター発表会場では、連日約200件のセッションが行われ、熱心な議論が交わされていた。  全体を通して、「液滴」や「細胞」がキーワードとなる発表が非常に多かった。中でも、「卓上低速遠心機を利用して簡便にヤヌス粒子を作成する方法を示した発表」や、「マイクロ流体デバイス内に単一細胞を捕捉し、mRNA, miRNAの発現量を定量した発表」、「マイクロ流体デバイス内に捕捉した神経細胞を局所刺激し、軸策末端が刺激に対して非常に脆弱であることを突き止めた発表」が印象に残った。また、バイオ・医薬分野における重要な未解決問題を的確に把握し、それに応じたマイクロデバイス・システムを作成・利用している発表が非常に多いように感じた。これは至極当たり前のことであるのだが、これまでの会議では「こういうデバイスを作成した」というだけで、それを何に利用するのかが明確でない発表が多かったという。これは、微細加工を得意とする研究者と基礎科学の研究者が垣根を越えて歩み寄るようになったことを反映してのことであろう。日本も欧米と同じように、両研究者が積極的に交流をはかり、共同研究を行うようにならなければ、世界の潮流から取り残されてしまうという危機感を強く覚えた。
 本会議は大変刺激的なものであり、参加して得られた経験は今後自身の研究を推進する上で大きな財産になると感じた。今回、このような機会を与えて頂いた組織的な若手研究者等海外派遣プログラムに、心より感謝申し上げます。

鈴木 浩典 (蛋白構造生物学教室・特任研究員)

派遣期間 平成23年8月21日〜平成23年8月30日(10日間)

派遣先  IUCr2011

 私は、本海外派遣プログラムにより支援いただき、8月21日から30日までスペイン(マドリッド)で開催されたIUCr2011(XXII Congress and General Assembly, International Union of Crystallography)に参加、ポスター発表しました。IUCrは、3年ごとに開催され、結晶学に関わる科学者が集い最新の成果が講演される学会です。タンパク質などの構造機能解析のみならず、解析手法、コンピュータープログラムなど内容は多岐に渡っています。普段は、立体構造を中心としたBiologicalな話を聞く機会が多いのですが、今回はより難度の高いサンプルの調製法や良質な結晶を得るためのテクニック、X線自由電子レーザーなどの新しい構造解析手法、それに伴う解析プログラムの開発・改良など、Technicalな部分の発表も聞くことができ、非常に多くの情報を得ることができました。
 また、Plenary lectureとして、2009年にリボソームの構造研究によりノーベル化学賞を受賞した3氏の講演があり、それぞれのアプローチや成果について聞くことができました。 ポスター発表においてはこれまで行ってきた分子シャペロンの構造研究に関して報告しました。私の考える新たなシャペロン機構について、聞いてくださった方々から良好な反応が得られる一方で、自身でも足りないと思っていた点である生化学的な解析の必要性や、さらなる構造科学的解析など参考となるコメントをいただくことができました。
 最後になりますが、本学会への参加は、自身の研究を改めて見つめなおすとともに、非常によい刺激を受けました。今回このような貴重な機会を与えていただきました、本プログラムおよび関係者の方々に心より御礼申し上げます。

尾谷 優子 (薬化学教室・助教)

派遣期間 平成23年8月27日〜平成23年9月1日(6日間)

派遣先 The 242nd National Meeting of the American Chemical Society

 私は組織的な若手研究者等海外派遣プログラムの支援を受けて、2011年8月27日から9月1日まで、アメリカ合衆国コロラド州デンバーで開催されたThe 242nd American Chemical Society National Meeting に参加し、ポスター発表を行いました。本学会は化学の様々な分野 (37 divisions) の研究者が6日間にわたって研究発表、議論を行うかなり大きな学会でした。今回はChemistry of Air, Space & Waterというテーマのもと、気候や地球環境に焦点が当てられているようでした。
 私は Division of organic chemistry (ORGN) にて「Synthesis and the ordered secondary structure of homo-thiopeptides based on a bridged β-proline analog」という題でポスター発表を行いました。また通常のORGNでの発表に加えて、様々な分野の発表(の一部)が1つの会場で行われるSci-mix session でも発表を行いました。Sci-mix session は特に多くの人出で、近い分野の研究者と意見交換したり研究上の課題に関する情報を得たりすることができたのは大きな収穫でありました。
 講演では、Dennis A. Dougherty教授の、非天然アミノ酸の導入およびカチオン-? 相互作用という化学的なアプローチでニコチン受容体作動薬の活性を理解する講演など、主にぺプチド・アミノ酸関連化学、計算化学、有機化学に関する情報収集を行いました。特に、チオアミド結合をタンパク質のフォールディングの観測に利用するという内容のJames Petersson 博士の講演では、昨年の論文掲載から1年足らずで研究が大きく進展しており、最新の情報が得られたことも貴重な経験でした。また、同年代の研究者が自分の研究成果を積極的に紹介する姿勢や発表方法も大変参考になりました。
 本学会を通して、自分の研究を俯瞰し、今後の展開への糸口を見つけることができました。また、短い時間でしたが同年代の研究者との交流は研究を続ける大きな励みになりました。このような機会を与えて下さいました、若手研究者等海外派遣プログラムに心より御礼申し上げます。

森 貴裕 (天然物化学教室・修士課程2年)

派遣期間 平成23年7月29日〜平成23年8月4日(7日間)

派遣先 52nd Annual Meeting of the American Society of Pharmacology

 今回私はSan Diegoにおいて開催された第52回annual meeting American society of pharmacognosy (ASP)に参加した。本学会はアメリカで行われる国際生薬学会であり、天然物の様々な分野における著名な先生方が参加される学会である。そこで論文等でいつも目にする先生方の講演を聞くことができ、非常に良い刺激を受けることができた。さらに、今までなじみのなかった分野の先生とディスカッションをし、その分野へ興味を持つことができたと同時に視野が広がったように感じた。自身のポスター発表においても海外の様々な分野の研究者と会話することで自分の研究の展望についてもさらに深く考えることができた。今回の国際学会の参加は、これからの研究生活を送っていく上で非常に有意義なものであったと思う。  最後になりましたが、このような国際学会参加という貴重な経験を与えて下さいました、本プログラムの関係者の皆様に深く感謝致します。

淡川 孝義 (天然物化学教室・助教)

派遣期間 平成23年7月29日〜平成23年8月4日(7日間)

派遣先 52nd Annual Meeting of the American Society of Pharmacology

 アメリカ、サンディエゴで行われた52nd Annual Meeting of the American Society of Pharmacologyに参加した。本学会は、アメリカ、ヨーロッパ、アジア、中南米に至る非常に多くの国から参加者が集まる、極めて大規模な学会であった。天然物の単離、有機合成、生合成、活性評価等、多種多様な、最新鋭の研究成果に触れることができ、非常に有意義な時間を過ごすことができた。  申請者は、糸状菌の代謝物研究を主な研究対象とし、以前、糸状菌由来の金属を活性中心とするチオエステラーゼの研究を行っていた。本学会において、同分野の著名な研究者が、同様の酵素ファミリーの新規な活性を明らかにした研究を報告していた。運良く、その研究者とディスカッションする機会を持つことができた。同分野をリードする、海外の研究者と直接意見を交換する機会を持てたことは、日本ではできない体験であり、大いに刺激を受けた。帰国後には、メールのやりとりも行い、今後の交流を始める良いきっかけとなった。また、プロテオームの技術を用いて二次代謝産物合成酵素を探索する研究を行っている研究者とも交流を持つことができた。このような研究手法は、最新鋭のMSやその解析技術が必要であり、日本ではほとんど行われていない研究である。自分の現在行っている研究内容についてディスカッションを行い、今後の研究において協力をしてもらえる道筋をつけることができた。これらは、まさに海外で直接研究者に会って話すことでのみ達成された収穫であった。申請者のポスター発表についても、数多くの研究者と意見を交わすことができ、非常に有益だった。  今回、海外での長期の滞在経験を持たない申請者にとって、学術面での刺激のみならず、語学の鍛錬という意味でも今回の派遣は大きな経験となりました。最後になりましたが、このような貴重な経験を与えて下さいました、本プログラムの関係者の皆様に深く御礼申し上げます。

直井 壮太朗 (分子薬物動態学教室・修士課程2年)

派遣期間 平成23年8月6日〜平成23年8月13日(8日間)

派遣先 Biomedical Transporters 2011, Congress center, Grindelwald, Switzerland

 今回、スイスのグリンデルワルトで行われたBiomedical Transporters 2011に参加してきました。本学会ではトランスポーター研究の最前線に立つ大学、企業の研究者が参加し、創薬過程における様々なトランスポーター研究の報告があり、それに対して活発な議論がされていました。その中では創薬標的としてのトランスポーターの可能性、新薬開発における薬物動態制御という面での重要性について多面的な研究成果があり、特に企業研究者の発表が多く日頃触れることの少ないものだったので興味深かったです。 私は研究室で行ってきた、MRP4とその相互作用タンパク質SNX27の関連を明らかにした研究成果をポスター形式で発表しました。SNX27が、核酸アナログの薬物を広範に輸送するトランスポーターMRP4の細胞膜からの内在化を促進すること発現量を負に制御していることを明らかとした当研究成果は、トランスポーター研究の中でもいまだ報告の少ない翻訳後の制御に注目したものであり、学会の中でも少ない部類の分野でした。そのため様々な異なるバックグラウンドを持っている人たちがポスターを見に来たことで、それぞれ違った質問を受けることができ、また全ての内容を簡潔に説明するという要求に答えるということも、自分にとってとても良い訓練になりました。海外の研究者との英語での交流自体が自分にとっては初めての経験で、はじめは英語で話すことに障壁がありましたが、日本にいるのと違う環境で過ごすことで短期間ではあるが障壁が取り除かれたように感じられました。特に印象に残ったのは海外では教授とファーストネームで呼び合うのが日常であるということで、学会で知り合った教授と研究の話をフランクにすることができたというのは驚きの体験でした。この経験は自分の今後の研究にとって励みになり、研究を進めて成果を出して再度発表する機会を持てればと思わせるものでした。 最後に、このような貴重な機会を与えてくださったプログラム関係者の皆様に厚く御礼申し上げます。

上條 真 (有機反応化学教室・助手)

派遣期間 平成23年7月24日〜平成23年7月28日(5日間)

派遣先 OMCOS 16

 私は、本海外派遣プログラムにより支援をいただき、7月24日から7月28日まで上海で開催された第16回Organometallic Chemistry Directed Towards Organic Synthesis (OMCOS 16)に参加しました。OMCOSは、有機金属化学を研究対象とする化学者が一堂に集う、2年ごとに開催される国際会議です。今回のOMCOSは、昨年ノーベル化学賞を受賞された根岸英一先生をはじめとする本研究分野を代表する著名な研究者や若手研究者らによる口頭発表(38講演)と、ポスター発表(507件)により構成されていました。私は今回初めてOMCOSに参加し、研究成果をポスターにて発表しました。有機金属化学分野における最新結果の情報をいち早く知ることと同時に、専門分野を同じくする研究者たちとの議論を通じて本研究領域の現状と今後の動向に関する情報を得ることができました。  今回のOMCOSでは、鉄を中心とした卑金属によるパラジウムやロジウムのようなレアメタルの触媒機能の代替、プラントレベルでの使用に耐えうる高活性を示す金属触媒の設計のように、環境保全を指向した研究結果の報告が多いように感じました。数は少ないものの、新規反応開発を基盤とする講演もあり、その力強さに大きな刺激を受けました。また、本研究分野における中国やシンガポールをはじめとするアジア諸国の台頭ぶりを直に感じ、これからの研究の進め方を考えるよいきっかけになりました。  最後になりますが、今回このような貴重な機会を与えていただきました本海外派遣プログラムおよび関係者の方々に、心より御礼申し上げます。

佐久間 知佐子 (遺伝学教室・博士後期課程2年)

派遣期間 平成23年7月18日〜 平成23年8月3日(17日間)

派遣先 Prof Vladimir Gelfand lab, Department of Cell and Molecular Biology, Northwestern University

 今回、微小管上輸送のエキスパートであるVladimir Gelfand教授のラボにおいて、ショウジョウバエS2細胞におけるライブイメージング手法の習得、更に私が研究対象としている分子への適用という形での共同研究を行いました。Gelfand教授のラボはショウジョウバエS2細胞にCytochalasin D処理を行うことで極性を持った微小管の突起を誘導し、その突起上における細胞小器官の輸送を解析しています。この独自の手法を用いることで、微小管上輸送の分子機構を次々に明らかにしているラボです。一連の細胞の取り扱い方法、およびライブイメージングの手法は、論文の紙面からでは知ることが出来ない多くのコツがあり、実際に足を運び一通り一緒に実験させて頂くことで多くの秘訣を学ばせて頂きました。また、定量解析方法についても助言を頂くことが出来ました。今後私の所属するラボで実験系を再現し、研究の発展に大いに役立てることが出来ると信じています。  また、2週間半という短い時間ではありましたが、海外のラボにおいて研究をすること自体がとても貴重な経験であり、普段とは異なるラボシステムに触れたことを始め、Gelfandラボ及び近隣のラボの方々と交流を深め、discussionする機会に恵まれたことは有意義でした。今後、私の研究を進める際に、今回出会った方々とdiscussionをさせて頂いたり、実験の助言を頂いたりすることでより円滑に実験を行うことが出来ると考えられます。また、Gelfandラボの方々が非常に効率よく研究をなさっている姿からも刺激を受けました。  今回の経験を生かし、研究をより発展させ、研究生活がより有意義なものになるように精進しようと思っています。最後に、このような貴重な機会を与えてくださった本プラグラムの関係者の皆様に心より感謝申し上げます。

 

田中 雄太 (有機合成化学教室・博士課程3年)

派遣期間 平成23年6月20日〜平成23年6月26日(7日間)

派遣先 Twelfth Tetrahedron Symposium

 私は今回、スペインで行われたTwelfth Tetrahedron Symposiumに参加した。 学会では、講演もさることながら、ポスターセッションが印象深かった。ヨーロッパやアメリカを中心に、世界中の研究室の学生から著名な教授クラスまで、様々な研究者と意見を交換することができた。これは、国内学会等ではどうしてもできない経験である。今回の学会で得た情報と刺激を今後の研究に大いに活かしていきたいと考えている。最後に、このような機会を与えて下さった組織的な若手研究者等海外派遣プログラムに心から感謝する。

二田原達也 (有機合成化学教室・博士課程3年)

派遣期間 平成23年6月20日〜平成23年6月26日(7日間)

派遣先 Twelfth Tetrahedron Symposium

 今回私は、組織的な若手研究者等海外派遣プログラムの支援を受けて、スペイン・シッチェスで開催されたTwelfth Tetrahedron Symposiumに参加させて頂いた。本シンポジウムは、有機化学と生化学への挑戦と題してある通り、それぞれの分野の著名な先生方が講演されることが魅力の一つである。また、ポスター発表者の数も300以上と比較的大きなシンポジウムであり活発な情報交換が行われていた。会場であるHotel Meliaは、バルセロナから40kmほど離れたシッチェスと言う町の東の外れにあり、白い壁と青いプールが印象的なホテルだった。期間中は全日晴天に恵まれた。 講演内容は多岐にわたり様々な刺激を受けることが出来た。特に、Ivan Huc教授の講演では、いかに大きく複雑な機能性分子を創成するかを述べられ、触媒反応を専攻する私にとっては、違った切り口で化学を楽しむ時間となった。ポスター発表は、驚くべきことにアルコールやコーヒーを交えながら、講演の合間に朝夕2回ずつ行われた。私は、”Synthetic Study on Zanamivir using anti-Selective Catalytic Asymmetric Nitroaldol (Henry) Reaction”と言う題目でポスター発表させて頂いた。修士課程から博士課程において、触媒的ニトロアルドール反応の開発を行なってきた。その応用として、抗インフルエンザ薬ザナミビルの合成研究を行なっている。ザナミビルは現在天然由来の化合物を用いて合成されているため供給に限りがあるが、触媒反応を用いて簡単に骨格構築ができれば大量供給が可能となる。そこで、先に開発した反応を用い、種々の基質に対するニトロアルドール反応及びニトロアルドール体の変換反応を試みた。高い立体選択性で生成物は得られ、そこから数段階変換反応を経た光学活性アルコールの合成まで進んでいる。現在残る環構築を検討しており、そのことを中心に説明させて頂いた。このポスター発表において非常に有意義な時間を過ごすことが出来た。 最後になりましたが、この様な貴重な経験をさせて頂き、組織的な若手研究者等海外派遣プログラム関係者の皆様に心より感謝申し上げます。

春日 秀文 (生理化学教室・博士課程2年)

派遣期間 平成23年6月22日〜平成23年6月26日(7日間)

派遣先 18th International C. elegans Meeting(第18回国際線虫学会)

 平成23年6月22日から平成23年6月28日にかけて、アメリカ合衆国カルフォルニア州ロサンゼルス校(UCLA) にて、第18回国際線虫学会に参加した。その際、現地時間6月23日に、”The microRNA mir-235 is essential for the insulin/IGF pathway-dependent quiescence in blast cells during L1 diapause” の演題名で口頭発表を行った。口頭発表に伴うディスカッションやその後に、Victor Ambros 博士ら著名な研究者を含む海外の研究者との意見の交換を行った。海外の第一線の研究者との議論を通じて、貴重な意見や情報を入手することが出来た。さらに、シンポジウムやワークショップなどの講演の聴講や、ポスター発表などの閲覧により、未だ論文発表されていないデータや、様々な分野の研究者の意見などの情報を得た。さらに、海外研究者との交流を通じて、様々な研究領域における研究者との関係を構築する事が出来た。このような学会参加を通じて、私の現在の研究状況と、海外における研究現状をより客観的・大局的に理解する事が出来た。
 
   口頭発表の様子        海外研究者との交流

幾尾 真理子 (微生物薬品化学教室・博士課程3年)

派遣期間 平成23年6月4日〜平成23年6月12日(9日間)

派遣先 University of Helsinki, Institute of Biotechnology

 平成23年6月4日から平成23年6月12日の9日間にわたって、アメリカ合衆国メーン州 ニューイングランド大学にて行われたGordon Research Conferences(Nucleic Acids)に参加した。 本学会において自身の研究成果を発表し、他の研究者との議論を通して研究の推進、進化につながる新たな視点やアイデアを得た。また核酸研究分野研究者との人的ネットワークを構築する事が出来た。

湊 雄一 (生命物理化学教室・博士課程1年)

派遣期間 平成23年3月17日〜平成23年5月17日(62日間)

派遣先 2011 Gordon Research Conference ?Nucleic Acids-

 私は、平成23年3月17日から5月17日まで、University of Helsinki, Institute of Biotechnologyの岩井秀夫博士の主宰する研究室において、Protein trans-splicingに基づく蛋白質ライゲーション法の技術習得、および私が研究対象としている系への適用という形での共同研究を行った。 岩井研究室で開発された方法は、独自のEngineered inteinを用い、大腸菌細胞内で2つの蛋白質(ドメイン)のライゲーション反応を進行させることで、高効率・高収量でのドメイン選択的安定同位体標識蛋白質の調製を可能にする。本手法の適用により、残基数が多く、NMRシグナルの縮重が著しいために解析が困難とされるマルチドメイン蛋白質でも、その全長において、目的のドメインの観測や、他の蛋白質との相互作用を解析することが可能になる。
 滞在期間中は主に大腸菌発現系の構築や、大腸菌によるドメインの発現とライゲーション確認に勤しむ日々であったが、最終的には目的ドメインを安定同位体標識体、その他のドメインを非標識体とした蛋白質試料を調製し、NMR測定により目的ドメインのシグナルのみを観測することに成功した。実際に一通りの実験を行った印象では、本手法は、従来のin vitroでの方法と比較して、実験効率や労力、蛋白質の収量などの点で非常に優れた手法であることが分かり、今後の私自身の研究を進める上で、大いに役立つものと期待される。また、数種類の標識パターンを見据えた発現系も構築することができ、今後の研究の幅を拡げることができた点でも、実りの多い滞在となった。
 また、これまで海外経験のなかった私にとって、2ヶ月間海外の研究室に滞在すること自体からも、多くのことを学ぶことができた。研究所には海外からの学生や研究者も(日本の大学と比べるとはるかに)多く、また、ほとんどのフィンランド人が英語に堪能であるため、日常的に英語を使う場面に恵まれた。自分の拙い英語には辟易とするばかりであったが、根気強く、そして温かく迎え入れてもらえたので、研究所や日常生活において不自由を感じることはほとんど無かった。2ヶ月の生活を通して、多少なりとも積極的にコミュニケーションを取る姿勢を身につけ、海外の同世代の学生や、PDの研究者たち、宿舎で隣人であったエジプト人神経外科医など、背景や文化の異なる様々な方々と交流できたことは非常に刺激的で、かつ貴重な経験であった。また、研究室の学生には、Vappu(MayDay前日のお祭り騒ぎ)などのイベントなどにも積極的に誘ってもらい、ヨーロッパの文化にも触れる良い機会を得た。ともすると外国人に対する気後れや、一種の排他的な感情を抱きがちな日本人とは大きく異なり、彼らは国籍や上下関係などには全く頓着するふうでもなく、コミュニケーション全般に対する垣根が低いのを感じた。
 今回の滞在では、研究面で満足のいく成果を得られたことに加え、海外で研究が進められている様子を実際に目の当たりにすることで、視野を拡げられたこと、海外の研究者と交流を持つことができたことなど、今後のキャリアに活かせる得難い経験を積むことができた。末筆ながら、本プログラムによるご支援に対し、深く感謝申し上げる次第である。

梶保 博昭 (生理化学教室・助教)

派遣期間 平成23年6月4日〜平23年6月13日(10日間)

派遣先 1) Vermont Academy 2) NY, USA

 平成23年6月5日からVermont州Saxtons RiverにあるVermont Academyで10th FASEB Summer Research Conference on Regulation & Functional of Small GTPasesが開催されました。低分子量G蛋白質の最近の研究動向を知るため、参加してきました。  今回のシンポジウムは、世界中から一流の研究者が集まるだけでなく、ポスドクやPh Dコースの学生も大勢参加し熱気溢れるmeetingとなりました。  低分子量G蛋白質にはRas, Rho, Rab, Ran, Arfなど様々なファミリーが存在するため、そのターゲットとなる研究分野も多岐に分かれています。今回のmeetingでは中でもRas, Rhoに関する研究が大勢を占めていました。Rasについてはやはり癌との関連因子としての位置づけから治療薬のターゲットとしての研究も盛んに行われていました。Rho, Rac, cdc42からなるRho ファミリーについては細胞運動や極性形成におけるその重要性から近年研究が非常に進んでいる分野ですが、特に下流(Pak family等)及び上流の因子についての研究に焦点が当てられていました。上流についてはグアニンヌクレオチド交換因子(GEF)とGTPase促進因子(GAP)の重要性が語られていました。Rho familyはGEFが数十種類同定されており、Alan HallやLinda Van Aelstなどが各因子のLoss-of-functionによるRhoファミリーの機能低下に伴う極性形成や神経の軸索形成などを含めた発生過程での異常を報告していました。個人的には、数十種類あるGEFが細胞外環境や発生過程に応答してどのように使い分けられているかという点に興味があったため、講演された先生にもその点を聞いてみたがが、現時点で生細胞中での全因子の活性をモニターする技術がなく、各因子をノックダウンないしはノックアウトして差を見るという手法が採られているとのことでした。 ポスター発表は約80演題が二日間に分けて行われ、私も発表しました。様々な先生や学生/ポスドクとDiscussionすることができ、非常にexcitingでした。新しい手法等も教えて頂いたので帰国してからの研究に活かそうと思います。  最後になりましたが、本学会に参加するにあたり支援を頂きました「組織的な若手研究者等海外派遣プログラム」に心から感謝したいと思います 。

石井 健一 (微生物薬品化学教室・博士課程3年)

派遣期間 平成23年5月21日〜平成23年5月25日(5日間

派遣先 ASM2011(アメリカ合衆国 ルイジアナ州 ニューオーリンズ)

 ASM2011 (111th general meeting of the American Society for Microbiology)に参加し、微生物学領域における研究の最先端の議論に触れることができた。特に、感染症を引き起こす病原体におけるnon-coding RNAの機能に注目が集まっており、複数のシンポジウム会場にて討論が繰り広げられていた。また、近年の感染症研究では、宿主生物と病原性微生物の二者間だけでなく、宿主生物―共生微生物―病原性微生物の三者間の相互作用(例:ヒト―腸内細菌叢―腸管病原性大腸菌)に焦点が当てられるようになり、複雑な関係性を解析するバイオインフォマティクスの重要性を改めて実感した。ポスター発表では、海外研究機関の学生、ポストドクトラルフェロー、及び教授に対して研究発表や質疑応答を行うことにより、英語でのプレゼンテーション能力を高めることが出来た。今回の短期留学を通して、海外の研究機関において研究活動を展開する意欲が涌いた。