生命現象は様々な生体分子の働きによって営まれており、生体分子の機能と生体分子間相互作用の解明は生命科学における 重要なテーマとなっています.「1分子蛍光イメージング法」は、これらを解析するための有効な手段であり、 多分子の平均を測定する従来の生化学的手法では得られない様々な現象を明らかにしてきました. 当研究室は、3つの班による独自のアプローチで、この問題に取り組んでいます.
1分子蛍光イメージング法を用いて生物分子機械の動作原理を解明します.
1分子蛍光イメージング法を用いてタンパク質である分子シャペロンの動作機構の解明に取り組んでいます. 分子シャペロンの一つであるGroELは、ATPの加水分解や立体構造の変化、GroESとの相互作用を通して 他のタンパク質の折れたたみを介助する分子機械です.分子機械の動作機構を理解することにより、 将来的には、理論的に機能性タンパク質を設計することが可能になり、創薬へと結びつけることができると期待されます.
最近では、全反射によるエバネッセント照明を用いて様々な生体分子の1分子蛍光イメージングが行われています. しかし、この方法では、溶液中の蛍光分子の濃度が50 nM以上になると基板上の標的分子の近接場内に複数の分子が 常に存在するため、1分子の信号を得ることが困難であり、強い分子間相互作用しか1分子観察できませんでした. これを克服するため、ナノ開口を用いた1分子イメージング法を開発しています.この方法では、ガラスに金属の薄膜を100 nm蒸着し、 その金属部分に直径約100 nm の穴を開けて励起光を入射し、極めて局在化した近接場を発生させます. 励起領域は全反射照明の数百分の一なので、mMの濃度の弱い生体分子間相互作用の1分子解析が可能になり 応用範囲がさらに広がると期待されます.
生細胞内の遺伝子群の時間的、空間的発現パターンと、分子間コミュニケーションを1分子蛍光イメージングにより解析します. この研究を通じて細胞内情報伝達と情報変換の分子機構を明らかにし、最終的に生体システムの構築原理の解明を目指します.
生きた細胞内で、特定のmRNAの発現量を定量し、さらに動態を1分子レベルでイメージングすることは、遺伝子発現の時空間制御を理解する上で極めて重要です. これを実現するため、細胞内のmRNAの発現と動態を高感度に定量イメージングする方法を開発します. この技術は、siRNAやmiRNAに代表される機能性RNAの細胞内における機能の解明にも貢献すると期待されます.
ナノ・マイクロ微細加工技術と1分子計測技術を融合させ、生体分子の機能に迫ります.
細胞内の生命活動の主要な役割を担うタンパク質や脂質、糖鎖などの生体分子は、単一分子で機能を発揮するとは限らず、 オルガネラなどの超分子複合体を構成して初めて機能を発揮する場合もあります. 従来の免疫沈降法では細胞内の極微量のオルガネラを純度良く単離して構成生体分子を同定することは困難でした. このため、生体分子やオルガネラを物理的に高純度に単離・精製する技術の開発が必要とされています. 本研究では、微細加工技術を用いて微小流路をチップ上に作製し、蛍光標識した生体試料を1分子蛍光顕微鏡にて高感度に検出し、 温度感受性ハイドロゲルをレーザー局所加熱にて制御し、生体試料溶液を高精度に流し分ける技術を開発しています. 精製した超分子複合体の構成成分を質量分析器などで同定することにより生体分子間相互作用を知ることができると期待されます.