5.哺乳類の冬眠を可能とする分子機構

 哺乳類の冬眠は、低温・乾燥・飢餓等の極限状態を全身性の代謝抑制と低体温により乗り切る驚異的な現象である。ヒトをはじめ多くの哺乳類は冬眠できないが、クマやリスなどの哺乳類は冬眠を行う冬眠動物である。冬眠を可能とするためにこれらの動物は虚血再灌流耐性・低温組織傷害耐性・肥満耐性・筋廃用萎縮耐性等の性質を備えるとされ、冬眠の分子機構解明は、知的好奇心を満たすだけでなく医学薬学への応用可能性も高い、21世紀の生物学に残されたフロンティアといえる。しかし、なぜこれら冬眠動物は冬眠できるのか、その分子メカニズムは未だ殆ど明らかになっていない。これまでの報告から、冬眠動物も1年中冬眠可能なのではなく、秋から冬にかけて冬眠可能な状態になることが、複数グループの研究により示唆されている。わたしたちは、この季節性の適応機構、すなわち前冬眠期における「冬眠不能状態」から「冬眠可能状態」への全身性のリモデリング機構(図1)の解明を目指し研究を行っている。この機構の解明により、冬眠動物が有する驚異的な性質を冬眠できない我々ヒトに賦与し医学応用する手法の開発も可能となると期待される。これまでの次世代シーケンサーを用いた網羅的解析等から、冬眠可能な哺乳類では脂質代謝や体温調節機構が全身・臓器レベルで変化することを明らかにしている。現在、冬眠可能状態の分子機構および生体が非冬眠可能状態から冬眠可能状態に変化する機構の分子基盤を解明するべく、新規方法論も積極的に取り入れつつ研究を進めている。

マウス組図冬眠.004

Reference
Chayama, Y., Ando, L., Tamura, Y., Miura, M., Yamaguchi, Y*.:
Decreases in body temperature and body mass constitute pre-hibernation remodelling in the Syrian golden hamster, a facultative mammalian hibernator
Royal Society Open Science, DOI: 10.1098/rsos.160002

冬眠の一般向け紹介記事:

山口良文
冬眠する哺乳類に学ぶ代謝制御〜冬眠するための準備とは?
薬事日報 2016/10/03 医療と薬剤 2016年 秋 

日経グッディ





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