(2) 『機能をつくる』

生物活性化合物を全合成をしていて考えさせられることが、もう一つありました。それは神様(天然物)や製薬企業がターゲットを定めてくれたものを上手につくるだけで本当にいいのか?ということです。研究には分野による分担があることも理解できるのですが、優れた研究の発端はself‐consistent であるべきだと私は考えています(最終的には広範な分野に影響を与えるべきなのはもちろんです)。そこで、オリジナルな触媒反応を用いることで初めて発現できる機能を開拓していきたい。

この領域で焦点とするのは、
1.非天然アミノ酸による蛋白質結合表面の3次元的ミミックからの医薬リード機能創出
2.水素社会を見据えたH2キャリアシステム機能開拓

の2点です。

蛋白質表面には親水性アミノ酸が密集しており、親水的かつ広範な蛋白質表面結合サイトを認識できる分子をアカデミックの立場からある程度論理的に設計するためには、ペプチドが有効な出発点であると思っています。しかしながら天然アミノ酸から構成されるペプチド製剤には、特に薬物動態における数多くの問題点が存在します。「我々は分子を1からつくれるのだから、なにも天然アミノ酸を使うことないじゃないか」、この発想の基、現状のペプチド製剤の限界を克服しうる非天然アミノ酸から構築される生物活性ペプチドの設計と合成に取り組んでいます。現在のところターゲットとしている医薬活性は、免疫抑制作用(九大との共同研究)と抗がん作用(本学生理化学教室からアドバイスをいただいています)ですが、基本的な分子設計概念は広く一般化できるはずです。まずは、親水性非天然アミノ酸を簡単に合成できる触媒反応の開発をおこなっている段階です。

触媒を作れると自称し、2010年に独立したキャリアを開始し、20年以上の研究期間が与え
られている自分が、エネルギー・環境問題から背を向けるとしたら、死ぬときに絶対後悔すると確信しています。いろいろな議論がありますが、2H2 + O2 ←→ 2H2O でエネルギー変換ができれば理想的でしょう。エネルギーキャリアとしてH2 を使うわけですが、これがなかなか問題です。新しい卑金属触媒の開発により、H2 を安定分子に対して、可逆的かつ温和な条件で、しかもスピーディーに出し入れするシステムを構築したいと考えています。卑金属触媒でのH2 の活性化は、有機合成反応においても重要な意味を持つものと期待されます。

「人間は(有機化学者は)自由に分子を設計し、つくれるのだから、自然界以上の機能を出せる
はずでしょう」――これが目標です。

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