東京大学大学院 薬学系研究科 蛋白構造生物学教室 Laboratory of Protein Structural Biology

研究内容

核内タンパク質の構造生物学
我々は主に核内で働くタンパク質に注目して構造科学的な研究を進めている。これまでヒストンを修飾するタンパク質(Nature Struc. Mol. Biol., 2004)や、修飾されたヒストンを特異的に認識するようなタンパク質の構造科学的な研究(Cell, 2008)を行ってきた。特に核内では様々な蛋白質が大きな複合体を形成していることが多く、その複合体がヒストン修飾を含めた転写制御を行っている系が多く知られている。我々はこのような複合体がどのように認識し合い、転写制御を行っているかについて構造科学的な研究を進めていきたいと考えている。
またもう一つの系として核内レセプターに注目している。核内レセプターは脂溶性低分子をリガンドとして転写制御因子として働き生体内で重要な働きをしているが最近になってDNA結合を介さない新規機能が明らかになってきた。どのようにして核内レセプターは他の因子を認識するのか、その認識をリガンドで制御できないかなどを構造科学的な見地から研究を進めている。

DNAの相同組換えに関わるタンパク質の構造生物学的解析組換え図
相同組換えは塩基配列がよく似たDNAの領域(相同領域)を置き換える現象であり、細菌からヒトに至るまで普遍的に起こる現象である。相同組換え反応により、減数分裂期では、相同染色体同士で一部の配列を交換し、体細胞分裂期では、DNA損傷からの修復を行っている。そのため、相同組換え反応はDNA情報の多様性の獲得と安定性に維持の両方に関与している重要な反応である。その相同組換え反応はリコンビナーゼと呼ばれるタンパク質が中心的な役割を果たしている。リコンビナーゼはメディエーターと呼ばれる様々なタンパク質と相互作用することで、相同組換えを起こしていることがこれまでの研究により明らかになっている。しかしそれらタンパク質がどのように相互作用し、相同組換え反応を制御しているのかについては不明な点が大変多い。そこで我々はリコンビナーゼを中心とした相互作用メカニズムについて、構造生物学的観点から研究を進めている。

自然免疫に関与する蛋白質の構造生物学的研究
免疫機構は,生体を細菌やウィルスなどの病原体から防御する機構であり,自然免疫と獲得免疫から構成されている。自然免疫は生体の初期防御機構であり,病原体が体内に侵入すると,マクロファージなどの細胞表面に存在するToll様受容体に代表されるようなパターン認識受容体が病原体の構成成分であるリポ多糖(LPS),リポ蛋白質,ウィルスや細菌由来のRNAやDNAを認識する。リガンド認識に伴い,細胞内においてMyD88などのTIRドメインを有する種々のアダプター蛋白質群を介し,最終的に炎症性サイトカインなどの転写を促進することで炎症などの免疫応答を引き起こす。自然免疫応答はさらに獲得免疫を活性化することで効率的に外敵から生体を防御している。近年,自然免疫応答は本来の防御機構としてだけではなく,そのバランスが破綻することにより慢性的な炎症を引き起こし,がん,自己免疫疾患,動脈硬化,肥満や糖尿病などの生活習慣病などと関与していることが報告され,臨床および創薬の分野において注目されている。
我々は,これまでにLPS認識蛋白質であるMD-2の結晶構造を決定し,MD-2の疎水的ポケットにLPSが結合することを明らかにした(Science, 2007)。また,解析したLPS非結合型のMD-2の構造では,ポケットに脂質と思われる物質の存在が認められた。さらに,LPS認識に関与するとされているMD-1蛋白質の構造を解析し,疎水的ポケットにリン脂質が結合することを明らかにしている(J.Mol.Biol., 2010)。
本研究では,自然免疫応答に関与する蛋白質による病原性リガンドの認識機構,およびシグナル伝達機構を構造生物学的な手法により解析し,これら蛋白質と疾患との関連を明らかにし,さらに,創薬への三次元構造的な基盤を与えることを目指している。

その他にも植物の自然免疫に関わる因子などの構造研究にも取り組んでいます。