| 薬学部進路指導の決定版 薬学部六年制導入でどう変わる 薬剤師は希望が持てる職か? 薬学部のメリットとデメリット |
| 高校生諸君! それでもあなたは六年制の薬学部に入りたいですか? |
| 2005.4作成、2005.6追記 |
| 2004年12月にスーパーサイエンスハイスクールの講師として埼玉県立浦和第一女子高等学校に招かれました。その時に、「薬学部が六年制になった時に将来がどうなるかよく分からず進路指導が難しい」という声を現場の先生から聞きました、また、生徒に聞いたところ「薬学部に入りたい」という人が多く、「親に言われている」「資格が取れるので、将来が安定していそう」「就職がし易い」といったことが理由のようでした。理系の女子の場合には薬剤師という資格が取れることが魅力で、その資格を持っていれば将来困らないだろうと親も考えているようです。また、”薬剤師が不足している”という誤った認識が広く浸透しているようです。しかし、現実には、私のホームページにもいろいろ書いてあるように、近い将来に薬学部を巡って大変な事態が起きようとしています。にもかかわらず、当事者は現状をそのまま話せば薬学部の志望者が減り、自分で自分の首を絞めることになり、事実を知らせずに(良い点を強調して)受験生を集めようとしています。学生に対しては無責任かも知れませんが、自分たちの生き残りをかけた熾烈なサバイバルゲームです。学生が集まらなければ生き残れないので、必死なのです。ですから、口が裂けてもこの現実は話せません。 |
| 高校三年生に理解してもらうのは難しいかも知れませんが、現実を知らずに安易に薬学部に進めば、将来後悔することは必至です。遅くとも六年制の最初の卒業者が誕生する平成24年までには世間に広く問題点が知れ渡ります。なぜならば、「六年制の薬学部で学んだのに薬剤師としての就職先がない」ことが明白になるのですから。薬学部に興味がある高校生や進路指導に当たる高校の先生に是非読んでもらいたくてこの解説を書きました。一人でも多くの人に読んでもらえれば幸いです。また、東京近辺ならば私が出かけていって、直接説明することも可能です。 まず、理想論や建前論を排除して、(1)平成18年度より、薬学部六年制がスタートする、(2)新設の薬科大学・薬学部が増え続けている、(3)健康保険制度が破綻しそうで医療費を抑制することが叫ばれており、病院経営が難しくなっている、という現実を踏まえての議論であることを強調しておきます。 |
| 薬剤師の需要は減る (1) 病院で働く薬剤師が減る:病院経営が苦しい状態が続いており、大学病院でも採算性が求められてきている。もともと医療スタッフは不足しているが、医師や看護師は減らせない。従って、病院で働く薬剤師が減ることはあっても増えることはない。実際、平成10年と平成12年(これが公表されている厚労省の最新のデータ)を比べると減少している。今ではもっと減少しているであろう。 (2) 調剤薬局の薬剤師数は頭打ちになる:医薬分業が増え、処方箋調剤を行う薬局が順調に増えてきていたが、伸びが鈍化している。医薬分業率の増加も頭打ちになるので、ほぼ現状維持となるであろう。 (3) 処方箋の電子化などにより日常業務が減るので必要な薬剤師数も減る:カルテや処方箋の電子化により、単純ミスがコンピューターで弾かれ、疑義照会などは減ると予測される。ユビキタスな社会になれば、さらに便利になり、人手が軽減される。 (4) 義務的配置の薬剤師が減る:規制緩和の流れは止まりそうもなく、コンビニ等での医薬品販売の圧力が強まる。また、ドンキホーテの件で認められたようにテレビ電話で薬剤師が対応すれば、各店舗に義務的に配置する必要が無くなる。インターネットを介した個人輸入も増えており、薬局での対面販売は全体として減少すると予想される。 (5) 配置販売の増加で薬剤師が関与しない販売が増える:配置販売は富山の薬売りのような独特の販売形態であり、新制度に移行する時に特例として認められたものである。本来は自然消滅すべきであったが、最近、何故か配置販売が増えている。日本の医療が遅れていることの一つの象徴であろう。いずれにせよ、このまま薬剤師が関与する必要がない配置販売が増えれば、薬剤師の需要減に繋がる。 |
| 薬剤師の供給は急増する (1) 新卒の薬剤師が急増する:薬科大学・薬学部の新設はまだまだ続き、最終的には一学年15,000人以上になると予測される。現在が9,000人以下なので、卒業生が1.7倍になる。薬剤師の国家試験を厳しくしたとしても、確実に新卒の薬剤師は増える。 (2) 薬学部卒業後に薬剤師を希望する人が増える:現状では薬剤師国家試験に合格しても約半数が製薬企業などに就職し薬剤師としては働いていない。しかし、せっかく6年間の教育や実習を受け、1.5倍の授業料を納めたのだから、薬剤師の資格を活かそうと考える人が増える。 (3) 薬剤師を退職する人が減る:6年間かけて得られた資格なので、今までのように結婚などでは簡単に辞めないと予想される。退職する人がいるので需給のバランスがとれていたがそれが崩れる。 (4) 但し、平成22〜23年は六年制の移行に伴い、薬学部の新卒者がいなくなるので一時的に供給不足が予想される。 |
| 六年制薬学部のメリットとデメリット メリット 四年制の卒業者に比べて実践的な知識や経験が増え、即戦力の薬剤師として期待される。 デメリット (1) 6年制になるので、卒業するまでの学費総額が増える。単純計算で1.5倍 (2) 実験や研究の訓練が不十分なので、同じ6年間在学した修士課程の学生のように製薬企業の研究所にはそのままでは就職できない(薬剤師としての即戦力になればなるほど、他の職種には不向きになる)。 (3) 学部の扱いなので、修士課程と比べて奨学金で金額や支給率が不利になる。 |
| 薬科大学・薬学部が増えたことのメリット・デメリット メリット 何もなし デメリット (1) 長期実務実習を受ける学生数が飛躍的に増えるために、十分な実務実習が受けられない可能性があり、受けられたとしても、希望する地域や期間に実習を行うことは非常に難しくなる。 実際、実習先確保のために、病院や薬局の奪い合いが始まっている。 (2) 実習先の確保のために、”謝礼”などの実務実習費がさらにかかる可能性がある。 (3) 薬剤師としての就職難となり、完全な買い手市場になる。 (4) 薬剤師が増えるので資格としての価値が下がる。 |
| まとめ 六年制を議論していた頃には考えもしなかった薬科大学・薬学部の急増は大問題であり、六年制のメリットを帳消しにするばかりか、実務実習などのシステムがうまく機能するかどうかも危うい事態に陥ろうとしています。こういう状況ですので、薬剤師の資格があれば将来困らないだろうと漠然と考えている人や6年間の学費は大変だけど卒業後に高収入の職に就けることを期待している人には六年制の薬学部は勧められません。 |
| 【結論】それではどうすれば良いか? |
| 能力の高い薬剤師や研究者の需要が無くなったわけではない。しかし、勝ち残るためにはそれなりの努力が必要 |
| 薬剤師を目指すなら ◇ 資格が得やすい六年制の薬学部に入学する。 ◇ 競争が厳しくなるのでアピールできる経験をし、プラスアルファの能力を身につけ、優秀な成績で卒業する。 (1).コミュニケーション能力:下手な薬剤師が意外に多い(対患者、対医療スタッフなど) 。 (2).介護などのボランティア体験 (3).病棟薬剤師の場合には、薬物相互作用、薬物動態、薬剤の化学的性状や分析方法の知識と海外文献を読みこなす英語力 (4).薬局薬剤師の場合には、地域のヘルスコンサルタントとなれるように、漢方薬、機能性食品、薬以外の健康法、ダイエットなどの幅広い知識が必須。 ◇ 研究に興味が湧いてきたら、四年生修了時に修士課程に入学することが出来ます。だいたい四年生の夏頃に入学試験があります。 薬学研究者を目指そう 薬学の専門教育を受けた学生は製薬企業から引っ張りだこです。ほとんどの私大薬学部が六年制のみとなり、研究者養成がこれらの大学では難しくなってしまうので、薬学部出身の研究者はますます需要が高くなります。ほとんどの国公立大学が六年制と四年制を併設します。東京大学では定員の9割が四年制で1割が六年制です。 ◇ 四年制の薬学部薬科学科に入学し、少なくとも修士課程を修了する。 ◇ 基礎科目だけでなく医療薬学などは薬の専門家になるために有意義。従って、六年制の科目も積極的に受講する。 ◇ 修士課程修了時点では無理だが、博士課程に進めば、その間に実務実習を受け、薬剤師国家試験の受験資格を得ることも可能(注)。PhD+薬剤師となれば国際的な評価も高く、アカデミック、行政、製薬企業、臨床試験支援企業などどこでも活躍できる。 |
| 以上の内容をスライド形式でPDFファイル(690KB)にまとめてあります。しかし、出典の不明な資料もありますので、あくまでも個人的に参考する程度にして下さい。文部科学省も制度改正を高校生や高校の進路指導の先生に知らせるためのPowerPointファイルを作成しています。こちらは広報が目的なので配布して良いと思われます。 |
| (注) 12年間の経過措置として四年生の薬学部を卒業した後に修士課程を修了し、実務実習や所定の単位を取得した者に対して個別に受験資格が認められることになりました。 |
| 2005.6追記 本ホームページはタイトルも衝撃的だったせいか、いろいろと反響を呼んでいるようです。岡山大学などからもリンクされているようです。薬科大学や薬学部関係者(教員など)からはメールがありませんが、高校生や現役の薬学部生から質問やお礼のメールが届いています。なるべく返信するようにしていますが、これらのメールを読んで感じることは、皆それぞれに不安を感じているということです。各大学で現在、六年制スタートに向けての取組みが行われていますが、誰も六年制スタート後に起こる事態については、明確には予測できないというのが現状です。しかも、一部の教員に任せきりで、当事者意識がほとんどない教員が少なからずいることも事実です。他大学の教員と会うと、各大学の現状を紹介し合うことが挨拶代わりとなっています。「こんな状態で本当に六年制がスタートできるのだろうか?」という本音の疑問も聞こえてきます。教員ですらこのレベルですので、高校生や薬学部生が不安に感じるのは当然のことです。でも、オープンキャンパスなどでは高校生や進学指導の先生方に「大丈夫です」と胸を張って答えるしかありません。 しかし、私の目的はいたずらに不安を煽ることではありません。カリキュラムや時間割を整えたりすることはそれほど大変なことではありませんので、来年四月の段階ではスムーズに六年制がスタートすると思います。これらは大学の中の努力で簡単に解決できることですから。問題は六ヶ月の実務実習です。大学の中だけで解決できる問題は少なく、実習依頼先の病院や薬局、さらには他大学との調整、共用試験という国全体のシステム作り、など大きな課題が山積です。しかも、こうした計画を早急に文部科学省、大学設置審議会に認めてもらわなければなりません。実習先の確保については、(有限責任中間法人)薬学教育協議会が中心になって行っています。一部の方々の献身的な努力により、日本全国で支障なく実務実習が行えるシステムができています。しかし、これは現在行われている四週間の実習についてであり、しかも必修ではありません。六年制となれば、全員必修で六ヶ月(実質的には五ヶ月)の実習となり、さらに新設の薬系大学が急増しているので、単純計算で20倍ぐらいの実務実習量を確保しなければならないことになります。スケール拡大に向けて献身的な努力を続けておられる先生方には頭が下がる思いで一杯ですが、そもそも紳士協定のような拘束力の弱い集まりであり、「大変になるだろうな」と感じています。実際、なりふり構わず実習先の確保に動いている新設大学があるようです。 実習が始まる前に学生はコンピューターを用いた共用試験とオスキーを受ける必要があります。医療の現場で患者(消費者)と接するわけですから、基本的な知識と態度が身に付いていることを確認する必要がありますが、これらは基本的に医学部の真似です。しかも、医学部ではまだ試行の段階で一斉には行われていないのに、薬学部ではそれを上回る規模で突き進もうとしています。準備万端とはほど遠い状態ですが、来年度開始ですから待ったなしです。 |
| マッキーのホームページ以外からリンクされてこのページに来た人は、ぜひ「マッキーのホームページ」を訪ねてみて下さい。 薬学教育などに関する情報があります。 |