役に立つ薬の話(2)
えーっ! コンビニで薬を売る?
2003.7作成。2003.8追記
1.はじめに
  2003年6月「利用者の利便と安全の確保について2003年中に十分な検討を行い、安全上特に問題ないとの結論に至った医薬品すべてについて、薬局・薬店に限らず販売できるようにする」という政府の方針が決定しました。これを受けて、厚生労働省は具体的な品目や「医薬品」と「医薬部外品」のどちらとして販売するかなどの点を検討することになりました。規制緩和であり消費者の利便性も向上するので、良い案のように見えます。また、いろいろなアンケートでは概ね国民の支持を得ているようです。コンビニ・FC加盟店全国協議会もコンビニでの薬販売を大幅に認めるよう声明を出しています。しかし、日本薬剤師会や日本薬学会などは、医薬品の安全で適正な使用の観点から反対しています。一見、両者の利権争いのようでもありますが、背景には様々な問題を含んでいます。
2.推進派の目指すもの
 消費者が支持する理由は身近にあるコンビニエンスストアなどで24時間いつでも薬が買えれば便利だということでしょう。この場合にイメージしている薬は夜間の急な発熱、歯痛、腹痛などに使用する薬だと思われます。店としても取扱品目が増え、売り上げ増を期待していると思います。薬剤師が服薬指導をして販売すべきだという意見に対しては、(1)薬局でもほとんど薬剤師の服薬指導を受けたことがないし、いつも自分で選んで買っていること、(2)チェーン薬局などでは薬剤師の充足率が低く薬剤師による対面販売がほとんど行われていないので、コンビニで販売しても大差ないこと、(3)配置薬販売(日本古来の富山の薬売りのように家庭に薬を予め置いておき使用に応じて後で料金を徴収するシステム)では薬剤師が販売しているわけではないのに拡大している、などが反論としてあげられます。但し、コンビニ・FC加盟店全国協議会の考えは決して消費者へのサービスだけを考えたものではありません。1999年に栄養ドリンク剤の成分を変えるなどして医薬部外品化しコンビニで販売できるようにして利益を上げた実績があるので、今回も二匹目のドジョウを狙っているようです。
 もし、消費者は利便性だけで、コンビニ店は利益の増大だけを考えて賛成しているのだとすれば、重大な点を見落としています。以下をお読みいただければ納得いただけると思います。
3.さまざまな問題点

(1)これが規制改革ですか?
 構造改革−規制緩和は自由競争を促し、マーケット拡大による経済活性化を図ることが真の目的だと思いますが、医薬品販売の場合には経済効果は期待できません。コンビニで販売しているからといって消費者が今まで以上に多く医薬品を購入するわけではありませんし、新たな企業が参加することも考えられません。規制により他企業の参入が妨げられ、役人の天下り企業が公共工事を独占受注している場合と同列で議論すべきではありません。但し、医薬品の販売形態は複雑で後述するように、その点に関しては規制改革すべきだと思います。

(2)二匹目のドジョウはいない
 1999年の時にはコンビニ主導で新たなドリンク剤市場を開拓できたようです。しかし、ドリンク剤のケースは例外です。栄養ドリンクはもともと健常人には薬効はほとんど期待できないものです。水溶性ビタミン入りのジュースのようなものであり、コンビニで販売しているものはさらに含量が少なくなっています。栄養不良や体力消耗時以外は不要ですが、健常人が過剰摂取しても排泄されるだけでまず問題ありません。飲む人も「水よりも体に良いだろう」程度の期待であり、体に良さそうなイメージで販売している清涼飲料水と大差ないでしょう。従って、コンビニで販売しても、駅の売店で販売しても大した問題がないと考えられます。もともと作用が弱く気分的なものであったので、コンビニの"薄い"ドリンク剤でもクレームをつける人は居なかったと思います。コンビニでのドリンク剤販売を問題と考えた専門家は一人もいなかったでしょう。医薬品の場合にはそうはいきません。胃腸薬やかぜ薬を毎日買う人はいないでしょうし、もしそうなったら予期せぬ深刻な副作用が増えるでしょう。

(3)薬の安全使用に誰が責任をもつ?
 医薬品使用における安全性の確保についても問題が残ります。本来、有効かつ100%安全な薬というものはあり得ません。「毒にも薬にもならない」という表現がありますが、これは真実です。ゲフィチニブ(商品名イレッサ)はその副作用と思われる間質性肺炎が原因で多数の死亡例を出したことは記憶に新しいところです。しかし、従来の制ガン剤とは全く作用機序が異なる薬で、非小細胞肺癌に用いた場合に劇的な薬効を示す例が報告されています。一部の人には今まで不治だった癌を治す夢の特効薬でも、致命的な副作用がでる場合があるという典型例だと思います。劇的な効果があればあるほど、強い副作用がでる可能性があります。イレッサは医療用医薬品ですが、過去の薬害に対する反省から、薬局で処方箋なしに購入できる医薬品(一般用医薬品、OTC)についても、製薬企業に対して市販後調査を義務づけています。また、薬剤師は医薬品適正使用のための情報収集および情報提供に努めることが薬事法で規定されています。決して、売りっぱなしではありません。しかし、情報収集システムについては現状で十分に機能しているとは言えません。一般用医薬品は医療用医薬品に比べて、作用が緩和な(≒副作用が弱い)ものが多いので、多くの人は副作用を経験したことがないと思います。しかし、ゼロではなく、少数の不幸な副作用を如何に防ぐかが問題です。販売拡張を推進したい人たちは「かぜ薬や胃腸薬などは・・・」といった表現をしばしば使用しますが、役に立つ薬の話(1)で述べているように、かぜ薬が原因と考えられる、間質性肺炎、スティーブンス・ジョンソン症候群や中毒性表皮壊死症などの重篤な副作用があります。夜中に子供が急に発熱し、それがインフルエンザだとしたらかぜ薬により脳症を誘発する危険もあります。安易な使用を増やすようなことは絶対に避けるべきです。こうした副作用に苦しむ人たちの苦しみや警告を謙虚に受け止めなければなりません。冒頭の"安全上特に問題ないとの結論に至った医薬品"は安全性を重視するならば、本当に毒にも薬にもならないものとなります。コンビニ・FC加盟店全国協議会の声明は医薬品販売とサッカーくじ販売を同列に扱っており、医薬品を販売することの重大さと責任を全く理解していないようです。薬効のある薬には必ず副作用があります。これは薬の本質でもあり、欠陥商品というわけではありません。但し、使い方により副作用を軽減したり、防ぐことが可能です。つまり、薬は適正に使用されることが前提に作られた商品であり、薬の販売は常に適正な使用方法の指導とセットで行わなければなりません

(4)薬剤師が不在でも実害がない?
 薬剤師不在の薬局があることは言語道断です。しかし、多くの人にとって使い慣れた一般用医薬品を購入する場合には特別な服薬指導は不要で、薬剤師の必要性は見えにくいかも知れません。上記のように薬剤師には医薬品情報の収集と提供という職務もあります。薬局で相談して購入する人も多く、必要に応じて常に適切な指導ができる体制を整えておくことが、副作用を減らしたり、未然に防ぐために重要です。つまり薬剤師が居ないことが大問題であり、違法状態を無くすことが先決です。
夜間や休日に薬が買えなくて困るという消費者の意見に対して日本薬剤師会は、次のような声明を出しています。
 1.夜間・休日に必要な医薬品を入手しやすいようにします
 2.医薬品購入者への適切な説明、服薬指導を徹底します
 3.薬剤師の名札を着用し、責任の所在を明確にします
もし実行されれば私が挙げてきた問題はほとんど解消されます。しかし、現実問題として可能かどうかは疑問が残ります。コンビニでの販売問題と連動する必要性はないので、早急に具体的な実行計画を示してもらいたいものです。

(5)日本における医薬品販売は複雑に規制されている
 薬剤師により適正使用指導の重要性を述べてきましたが、実は日本においては薬剤師が関与しない販売形態が認められてきています。一般の人にとっては、薬局も薬店も同じ店舗に見えるかもしれませんが、薬事法では薬剤師がいる薬局の他に、薬種商販売業と特例販売業が定められています。さらに各家庭に薬箱を置いておく、配置販売業があり、いずれも薬剤師が販売に関与することが義務づけられていません。配置販売は医薬品の適正使用や安全使用の観点からは異常形態です。配置販売は医薬品販売の近代化を進めるときに過渡的な処置として伝統的な置き薬を保護したものであり、いつまでもこの状態を維持することは異常です。薬種商販売業の販売品目は厚生労働大臣が、配置販売業と特例販売業の品目は都道府県知事が決定しています。扱える品目間に差がありますが、科学的な根拠は曖昧です。日本における医薬品販売形態と規制は消費者にとって非常に分かりにくいのが現状です。販売形態に対する誤解は適正使用の面からも問題です。

(6)コンビニの戦略で薬を売ったらどうなる?
 もう一つの問題点はコンビニが、売れるものしか置かないという非常に効率の良い販売を展開しているということでしょう。食料品や日用雑貨の場合には売れ筋商品を目立つところに並べれば売り上げ増になります。コンビニでは限られた商品スペースを有効に使うために少品目大量販売にならざるを得ません。もし、かぜ薬や胃腸薬などを販売することになると、それぞれ売れ筋の薬を一品目か二品目しか置かないでしょう。売り上げの少ない分野の薬は切り捨てられることになります。結局、消費者は自分で選ぶどころか、コンビニが選んだ商品(薬)を買うことになります。メーカー間では、コンビニに置いてもらうために卸値の値引きなどの熾烈な競争が水面下で展開されるかもしれません。
 製薬企業については、マスコミによる薬害事件などの報道から、「患者・消費者のことは考えず、利益のためなら何でもする」というイメージを持っている人も多いと思います。確かに、一部の企業においては反省すべき点がありました。しかし、見過ごされている点は日本の医療を支えているという現実です。つまり、売れ筋の医薬品だけを追いかけているわけではなく、患者が少数でもその疾病治療薬を開発したり、古くて価格が下がってしまった薬でも代替薬がない場合には利益がなくても供給し続けているといった面もあります。とにかく売れ筋商品を扱い、場合によっては自ら売れ筋商品を開発するというコンビニの戦略とは基本的に相容れないものがあります。
4.私の提案
 まず、規制改革についてですが、日本における複雑に規制されている医薬品販売形態こそが改革の対象となるべきでしょう。理想的には全ての医薬品販売において、適正使用の指導(情報提供)と副作用などの情報収集が行われるべきです。しかし、現実にはそれらが行われていない販売形態が認められてしまっています。私は、従来の規制を撤廃し、薬剤師の常駐する薬局とそれ以外の店(医薬品取扱店)の二つに分けることを提案します。薬局では処方箋による調剤と服薬指導を充実させます。薬種商販売業、配置販売業、特例販売業それに薬剤師を充足できていない薬局は、段階を追って医薬品取扱店に統一されるべきです。その時に配置販売の形態をとり続けることは認めても良いと思います。また、医薬品取扱店にはコンビニなどの新規参入も可能とします。少なくとも自由販売ではなく届け出制とし、経営者にはある程度の講習等が必要です。また、副作用などの情報収集手段を確保する必要があります。
 消費者が利便性だけを考えないように、薬の本質と適正に使用されない薬の危険性を認識するような啓蒙活動が必要でしょう。適正に使用されているということは、適応症状、用法・用量、併用する薬との適合、薬効確認や使用期間の遵守などさまざまな事項が守られていることを意味します。一般用医薬品は医療用医薬品に比べて、作用が弱かったり含量が少なくなっているので副作用も少ないと考えられます。問題となる副作用の発生率を0.1%だと仮定すると、1000人(回)使用のうち999人(回)は全く問題がないことになります。その場合には何時でも何処でも購入できた方が便利だし、用法用量が分かれば特に服薬指導は不要でしょう。しかし、残りの1人(回)は運が悪かったで済まして良いのでしょうか?商品の欠陥ならば売った側に100%責任がありますが、薬の本質として副作用はゼロではありませんし、適正使用されなければさらに増えます。十分な基礎研究や臨床試験を行っても、副作用の発生は完全には予測できません。つまり、不幸にして0.1%になってしまった人の救済および0.1%をさらに減らすシステムを社会全体で作る必要があります。自由販売によって起こる弊害と失われる副作用軽減の機会は、トータルすると莫大な経済的損失をもたらします。
 問題になるのは、医薬品取扱店で何を販売するかで、これから審議会等で激論が展開されるものと思います。基本線は、「発売されてから十分な時間が経過し、副作用の情報が非常に少ない品目」に限られると思います。政治的な力が作用しそうですが、できるだけ科学的な根拠で決定して欲しいと思います。残念ながら、一般用医薬品の副作用情報については、副作用等の情報収集は製造メーカーが主体となっています。医薬品取扱店からの情報も含めて、公的機関で副作用等の情報を一元化して効率よく集めるシステム構築を同時に進めるべきです。販売可能品目については、とりあえずは、薬種商販売業や配置販売業に認められている品目の中から選ぶことが妥当でしょう。しかし、前述のように、現在認められている取扱品目の線引きについては科学的な根拠が十分ではありません。また、不適切な販売形態が認められてしまっている現状を追認するものになってはいけないと考えます。
 もし、消費者の希望が、解熱薬や鎮痛薬など夜間の急病に対処する薬の販売でしたら、大問題です。素人判断では適切な初期治療の貴重な機会が失われる可能性があります。また、現状の鎮痛薬は理想的な薬からはほど遠い状態にあります。急病に対処できる作用をもつ薬は、それだけ強い副作用をもち、コンビニ店等での安易な販売を認めるわけにはいきません。また、薬局側は消費者の声に耳を傾け、深夜休日の販売と服薬指導の徹底の具体策を示す必要があります。
追記:2003.8
 チェーン薬局の経営者もコンビニの経営者と大差ないことを最近思い知りました。なんと夜間の薬剤師常駐義務を緩和して欲しいと要望したり、テレビ電話での対応を始めたそうです。さらにテレビ電話による販売について薬事法違反の疑いを指摘されると、深夜緊急時には無料提供すると言い始めました。これについては呆れるばかりです。彼らも医薬品を販売することの重大さと責任を全く理解していないようで、やはり私の提案にあるように、チェーン薬局は薬剤師が常駐しない医薬品取扱店になるべきです。彼らに国民の医療と福祉に貢献するという気持ちを期待することは所詮無理な話のようです。
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