N-Myc

Wnt signaling and its downstream target N-Myc regulate basal progenitors in the developing neocortex.

桑原 篤、平林 祐介、後藤 由季子
Kuwahara et al. Development (2010) 137, 1035-1044.

 大脳新皮質は様々なカラム(機能単位)からなり、それぞれのカラムごとにニューロンの数はほぼ決まっているがその決定機構は未知の部分が多い。一方で、ニューロンの数が多いカラムでは発生期にニューロン前駆細胞の存在する脳室下帯が厚い、という相関がある。このことから、脳の機能単位ごとのニューロン数の決定については、ニューロン前駆細胞の分裂回数が大きく貢献すると考えられている。しかしながら、ニューロン前駆細胞の数の制御メカニズムについてはこれまでほとんど未解明であった。我々はこのニューロン前駆細胞をWntシグナルとその下流で発現が誘導されるN-mycがニューロン前駆細胞の数の決定に重要な役割を果たしている事を見出した。  我々はこれまでに、大脳新皮質由来の神経幹細胞に対してWntシグナルがNeurogenin1遺伝子の発現を誘導し、ニューロン分化運命を誘導することを明らかにしてきた(Hirabayashi et al. 2004)。一方で、Wntシグナルは神経幹細胞の増殖を促進する事も報告されていた。そこで、我々はこの2つの現象(ニューロン分化と増殖の促進)がどのような関係にあるのかを調べた。その結果、その結果、Wntシグナルの活性化あるいはN-mycの過剰発現は神経幹細胞の数を減らし、逆にニューロン前駆細胞の数を増やした。さらに大脳皮質神経幹細胞のin vitro初代培養系を用いた実験を行った結果、WntシグナルとN-mycは神経幹細胞からニューロン前駆細胞への分化を誘導するとともに、ニューロン前駆細胞の増殖を促進している事が示唆された。N-mycノックアウトマウスの大脳皮質においてはニューロン前駆細胞の数が減少し、ニューロンの数も減少していたことからWnt-N-myc経路がニューロン数を適切な数に維持することに必要である事が示唆された。  これらの結果は大脳のニューロン数決定メカニズムの解明に重要な貢献となったと考えている。

Wntシグナルとその下流で発現が誘導されるN-mycは神経幹細胞からニューロン前駆細胞への分化を誘導する。