HMGAは神経幹細胞において
グローバルなクロマチン状態とニューロン分化能を制御する

岸雄介、藤井佑紀、平林祐介、後藤由季子

Kishi et al. Nature Neuroscience (2012) 15, 1127-33.


大脳は哺乳類の高度な生命機能を司る器官で、脳内ではニューロンにより複雑なネットワークが作られている。 このニューロン及びそれを支持するグリア細胞は神経幹細胞(神経系前駆細胞)と呼ばれる細胞から産生される。 脳内ネットワークの主要素子であるニューロンは主に胎児期に産生され、脳内の特定の場所を除いて、 出生以降の神経幹細胞はほとんどニューロンを産生できなくなることがわかっている。 しかしながら、神経幹細胞が出生以降にニューロン産生能を失う原因についてはわかっていなかった。

本研究ではまず、大脳新皮質神経幹細胞がニューロン産生能を失う過程でクロマチンの状態がグローバルに(核全体で)凝集することを発見した。 幹細胞において分化能を失う過程でクロマチン状態がグローバルに凝集することは胚性幹細胞などで知られていたが、 生体内の組織幹細胞でこのような現象を観察したのはこれが初めてである。

さらに、HMGAと呼ばれるクロマチンを制御するタンパク質群が、 ニューロン産生能を持った神経幹細胞においてクロマチン状態を脱凝集するために重要であることを見いだした。 また重要なことに、HMGAは神経幹細胞にニューロン産生能を付与する因子であることも明らかにした。 特に、生後大脳新皮質の神経幹細胞においてHMGAを過剰発現すると、一旦失ったニューロン産生能が回復することがわかった。

これらの結果から、HMGAは神経幹細胞のクロマチン状態をグローバルに脱凝集させ、ニューロン分化能を制御する重要な因子であることがわかった。 今回の成果は、神経幹細胞を用いた再生医療への応用につながる可能性があると考えられる。