大脳新皮質ニューロンにおけるクロマチンレベルの分化・成熟制御

脳は、運動・思考などの高次機能を司る器官である。 脳を構成するニューロンは複雑かつ緻密な神経ネットワークを形成しており、これは脳が高次機能を果たすうえで欠くことができない。 この神経ネットワークの形成には、その回路素子であるニューロンが正しく分化・成熟することが重要であると考えられる。

我々が着目している大脳新皮質の発生過程において、神経系前駆細胞から分化したニューロンは皮質板へと移動し、 軸索や樹状突起を伸展させ特徴的な形態を獲得する。 さらに、膜電位の確立や他のニューロンとの結合などを通じて機能的な神経回路網を形成していく。 このように、ニューロンが大きく形質を変化させる際には様々な遺伝子の転写パターンが変化することが知られている。 これまで、遺伝子の転写パターンを調節するメカニズムの一つとして、クロマチンレベルの制御が考えられてきた。 では、ニューロンの分化・成熟過程において、クロマチン状態の制御はどのように行なわれているのだろうか?


我々は、クロマチン状態を制御するクロマチンリモデリング因子や、クロマチンを構成する因子に着目し、 ニューロンの分化・成熟への寄与を検討している。さらに、ヒストン修飾とニューロン分化・成熟との関わりについても興味を持ち実験を行なっている。

これまでに、我々はグローバルなクロマチン状態が、神経系前駆細胞の運命制御に重要な役割を果たしていることを見出した (Kishi et al. Nat. neurosci. 2012)。 このようなグローバルなクロマチン状態の変化が重要な役割を果たしているのは、神経系前駆細胞だけなのだろうか? 我々は既に、ニューロンが分化していく過程でもクロマチン状態がグローバルに変化することを示唆する結果を得ている。 今後、ニューロンの分化・成熟過程でもクロマチン状態の変化が重要であることを示すことで、 グローバルなレベルでのクロマチン状態の制御が一般的に神経発生で重要な役割を果たしていることを示していきたいと考えている。