東京大学大学院 薬学系研究科
生理化学教室

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研究の概要

生理化学教室が対象とする研究領域は、いうまでもなく生理化学であり、 生体における種々の生理応答を、生化学、分子生物学、細胞生物学、分子遺伝学などの 幅広い手法を用いて研究しています。 生理応答とは生体を構成する個々の細胞機能が合目的性をもって 発揮される結果であり、 これは細胞に常時与えられる 外界からの刺激(シ グナル)に対して細胞が適切に応答することによって可能となります。生理応答の乱れは、 多くの疾病の原因となり、治療に用いられる薬はこの乱れを正常化す べきものです。 当教室が研究対象としている細胞のシグナル受容と応答のプロセス(シグナル伝達機構)は、 生命科学の中でも最も重要な研究分野の1つとして、 国際的にも広範な研究の対象となっています。

図1 種々のシグナル伝達系に介在するGタンパク質スーパーファミリー

これまでに当教室では、独自の研究成果であるGTP結合性制御タンパク質(Gタンパク質)、 特に百日咳毒素によってADPリボシル化される三量体 (αβγサブユニットからなる) 構造のGタンパク質)Giファミリーを中心に、 細胞のシグナル伝達系に介在する分子基盤の解明を主要な研究テーマとしてき ました。こうした研究から、細胞膜を7回貫通しGタンパク質と共役する受容体 (G protein-coupled receptor: GPCR)にアゴニストが結合すると、そのシグナルは Gタンパク質を介して伝達され、細胞内でシグナル分子を産生する酵素や イオンチャネルの活性を制御するという基本的な 概念が確立しました。 この作用様式はホルモン受容、神経伝達、 さらに細胞の増殖あるいは分化などの広範な細胞機能の発現に介在することが 明らかにされてき ました。

薬学を含むこうした最近の基礎生命科学領域の進展によって、 細胞におけるシグナル伝達経路とその調節機構に関わる理解が進み、創薬の標的と評価 系の開発 という課題に対して、様々な視点でのアプローチが可能になっています。 

これまでは、それぞれの研究分野で個別に見出され た知見がより広く適用可能 な普遍的 概念として定着していく、「個別化」から「普遍化」への流れが強い傾向にありました。 しかしながら、ヒトを含む多くの生物種の遺伝子が解読され、ゲノム情報の成果を活かした 新しいスタイルによる研究の展開も進んでいます。ポスト・ゲノムシークエンスのこれからは、 個々の細胞の生理機能に再び立脚した「差別化」された研究も必要です。

当生理化学教室では、三量体Gタンパク質に関わるこれまでの研究成果を踏まえて、 この間mRNAの動態制御に登場したeRF3ファミリー、さらに独自に同定したアティピカルな 新奇Gタンパク質群を含む低分子量Gタンパク質が介在するシグナル伝達系へと 生理機能の解明を進めています(図1)。こうしたGタンパク質が介在する広範な 細胞内シグナル伝達系の研究から、諸種のGタンパク質ファミリー間で共通 あるいは相違する制御機構を新しく概念化し、 細胞機能の発現に向けてGタンパク質が特異性と多様性をもたらすメカニズムの解明が期待できます。

Gタンパク質とその制御因子の遺伝子変異 に起因した疾病も多く、Gタンパク質シグナルの研究は、疾病の発症メカニズムの理解と 創薬研究にも大きく貢献します。今後はより具体的な個々の細胞機能と の関わりから、シグナル伝達系の制御機構と生理的役割を解明する必要があり、 それらのシグナル伝達経路を対象として、創薬に向けた新しい利用技術 を開発す ることも重要と考えます。 以下に、当教室で進めている最近の研究テーマ:Gタンパク質が介在する細胞内シグナル伝達系を紹介します。