東京大学大学院 薬学系研究科
生理化学教室

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アミノ酸シグナルを伝達するヘテロ二量体型Gタンパク質Rag

他方、Rhebは栄養状態を感知して細胞の成長やタンパク質合成を促進するmTOR(mammalian target of rapamycin)経路の上流に位置することが見出されており、Rhebの不活性化因子(GAP)であるTsc(Tuberous sclerosis complex)は、精神遅滞やてんかんを誘発するヒト結節硬化症の原因遺伝子でもあります。また、Rhebと並行して、mTORを活性化すると考えられているRagの研 究も進行しています。Ragは低分子量G蛋白質よりやや大きな分子量をもつ蛋白質で、酵母ではGtr1pとGtr2pが存在し、ヒトやマウスでは Gtr1p様のRagAとRagB、Gtr2p様のRagCとRagDが存在します。酵母やヒトの培養細胞を使った研究により、Gtr1p(または RagA、RagB)とGtr2p(またはRagC、RagD)が異なる機能をもつのではなく、むしろお互いが会合し、ヘテロダイマーを形成して機能 するものと考えられていますが、ヘテロダイマー形成の意義やその活性調節機構は不明です。Gtr1p様のraga-1とGtr2p様のragc-1を もつ線虫は、両者のRagのノックアウト株が樹立されている唯一の多細胞動物であり、我々はこれらの株を用いてRagの個体や細胞レベルでの生理機能 を解析してきました。

図4 Rag変異体における肥大化したリソソーム

これまでに、raga-1とragc-1が、アミノ酸に応答して、幹細胞や芽細胞の増殖や分化を活性化し、ひい ては個体の成長を 促進することを示唆する知見を得ています。また、raga-1やragc-1の変異体ではリソソーム・後期エンドソームが肥大化していることを見出し ています(図4)。近年、培養細胞などを用いた実験などにより、ヒトやショウジョウバエのRagが、アミノ酸シグナルの伝達因子であることが報告され ました。また、アミノ酸シグナルの活性化には小胞輸送が重要な働きを担うことが示唆されています。これらのことから推察すると、線虫のRagも他の動 物のRagと同様の機能を担っている可能性が非常に高いと考えられます。そこで、ほ乳動物のRagを用いて、相互作用因子の探索や細胞生物学的解析を 進め、個体レベルでの表現系解析が容易な線虫の遺伝学的研究を並行して行うことによって、個体から細胞や分子のレベルで、Ragの関わるシグナル伝達 の機構とその生理機能を探求しています。