東京大学大学院 薬学系研究科
生理化学教室

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リソソームなどの酸性オルガネラの形成・機能に介在する低分子量Gタンパク質Arl8

一方のArl8/Gieは、機能未知な低分子量Gタンパク質の中で、進化的に最もよく保存されている分子の1つ です。Arl8はヒトの広範な臓器で発現していますが、酵母には存在せず、ショウジョウバエや線虫にはその相同因子が存在することから、多細胞生物に おいて根幹的な機能を司ると考えられます。個体におけるArl8の生理的役割を解析するために、線虫Arl8欠失変異体(arl-8変異体)を作出し てその表現型を解析した結果、arl-8変異体は母性胚性致死となることが明らかとなりました。この表現型は、arl-8変異体にヒトArl8遺伝子 を導入することにより相補されることから、Arl8の機能は種間を超えて良く保存されていると考えられます。さらにArl8の構造活性相関を調べる目 的から、各種の点変異を導入した線虫Arl8遺伝子を用いてarl-8変異体の母性胚性致死性に対するレスキュー実験を行った結果、胚性致死の表現型 は野生型及び恒常的活性型(GTP型)Arl8でレスキューされ、不活性型と考えられるGDP型変異体ではレスキューされませんでした。

図5 線虫Arl8欠失変異体のマクロファージ様細胞におけるオルガネラの形態

すなわち、正常な線虫の胚発生にはArl8の活性化が必要であることが示されました。また、線虫のマクロファージ様細胞であるcoelomocyteにおいては、 Arl8はリソソームに局在し、arl-8変異体のcoelomocyteでは、小型化したリソソームが多数形成されることを見出しました(図5)。 arl-8変異体ではエンドソームなどの他の細胞内膜オルガネラの形状に大きな異常は認められないことから、Arl8は多細胞生物において、主にリソ ソームに局在し、その形成を制御するGタンパク質と考えられます。また海外のグループとの共同研究により、arl-8変異体の神経細胞においては、微 小管依存的なシナプス小胞の輸送に異常が生じており、シナプス小胞が本来局在すべき神経筋接合部に到達せず、神経伝達物質の放出能が低下するという興 味深い表現型を示すことを見いだしました。近年の膜オルガネラ・プロテオミクスの知見からArl8はリソソームだけでなく、各種のリソソーム関連オル ガネラやシナプス小胞といった多様な酸性オルガネラに存在することが示唆されており、Arl8が酸性オルガネラ全般の形成や機能に関与する可能性が考 えられます。