教授挨拶
教授プロフィール

教授から挨拶

生物は、有害な環境物質や経口的に接取した生体外異物(ゼノバイオティクス)に対し、長い進化の過程で防御機構を備えるに至った考えられる。比較的低分子の不特定異物に対する生体防御機構を理解することは生命科学、生物学の本質の解明につながるものと思われる。当研究室の主たる目的は、医薬品を含む広範なゼノバイオティックスに対して生体が、免疫機構とは異なる防御機構として獲得した排出機構を、1) 分子輸送(トランスポーター)による排除機構、 2) 分子変換(代謝酵素)による排除機構、3) ゼノバイオティックス排除系の臓器相関と体内動態の解明とその制御、という観点から明かにすることである。ゼノバイオティクス排除能力を決定する重要な要因であるこれらの一連の反応の実体を生化学的、分子生物学的手法によって明らかにし、各々の蛋白、遺伝子の構造解明を行うとともに、生体の中でお互いにどのような連鎖により解毒・排除に関わっているかについて速度論的手法により統合する。

最近の研究により、ゼノバイオティクス排除に関与する蛋白質には、多様性、遺伝的多型の存在、大きな種差、広範な基質認識性を示すこと、という共通の特性のあることが明かとなりつつある。これは、各種抗原に対応すべく体内に出現する抗体の多様性と似ている。しかしながら、低分子ゼノバイオティクスの排除機構の多様性発現のしくみについては全く明かにされていない現状である。、我々の研究の発展によりゼノバイオティクス排除機構の持つ共通特性の出現のしくみが明かとなり、生物学的意義についての解明につながるものと期待される。また、この研究成果は波及的に、新しい医薬品の開発における薬物動態、代謝に関する現在の試験研究法の改良、薬物感受性の個体差を回避する方法などの事項に解答を与えるものと考えている。物理化学、速度論、生理学、生化学、分子生物学を基盤として、これら領域を統合することにより、Pharmaceutical Scienceの発展に貢献したいと考えている。

最近、大学院生を念頭においてメッセージを書く機会があり、以下に示す。若い研究者の皆さん、希望と夢をもって、薬科学の発展に貢献しようではありませんか!

21世紀に向けてー若手研究者への提言

21世紀に向けて最も重要なことは、世界の薬剤学領域をリードしていける大学、官、企業の多くの研究者を輩出することであろう。日本の大学、企業の薬剤学研究者のレベルは、欧米の研究者と同格である。独創性という観点からも決して遅れをとっていないと思う。しかし、学会や会社内でのmeetingで受ける印象は積極性、自分の意見をはっきりと述べるかどうか、という点で大きな違いがあるために、全体としての印象は大きく異なってくる。この比較は、日本人が日本語で議論をしている時を土台にしているのであるから、語学の問題ではない。文化的土壌の違いによるものと思うが日本の多くの研究者は、自分の頭で考え自分が疑問に思ったことについて、他人と議論することをためらう(控える)傾向が強い。また、自分の独創的な考えを土台にして、他をリードしてやろうという気概が少ないように感じる。これが国際会議や、外国の企業との折衝、討論になると、語学の問題もあり、この傾向にさらに拍車がかかる。このような外国での経験を通して、私自身、自らの今後の課題及び夢として持っていることは、世界の医薬品開発過程により関心を持ち、薬物動態、創剤学的観点に立脚し、優れた薬剤を効率よく開発する新しい方法論を世界規模で提出していきたい、ということである。そのためには、scientificな英語のみならずadministrativeな英語、一般英語(特にヒアリング)についてブラッシュアップし、学会や諮問組織などの委員会などで、会をリードできるようになる必要性を痛感している。できるだけの努力をしたいと思っている。

私の研究室の大学院生に対して最近よく、次のようなことを言って叱咤激励している。”研究者として信じられるのは、正しい実験データと自分の頭を使った解釈だけである。たとえ、教授が言ったことでも、ノーベル賞受賞学者の書いた記述であっても、それを頭から信じないで欲しい。自分が納得できなければ、反論しなさい。その元になったデータをもとに自分の頭で考え、納得して初めて信じなさい”。しかし、現在の薬剤学の置かれたまさに学際的、学融的な研究領域の広がりを体験してみると、若い研究者にとって、本当に大変な時代だなあということを痛感する。私の研究室を例にあげると、物理化学の基礎、速度論、膜透過の理論、分析化学、薬物動態・代謝学、生物化学、分子・細胞生物学、生理学の基礎を理解しておくことは必須であるし、次から次と出てくる新しい方法論、技術を取り入れることも重要である。論文を書く訓練をすること、話す英語、聞く英語をブラッシュアップすることも必要である。熱心で真面目な学生であればあるほど、このような苛酷な情況にとまどいと絶望感を感じることも当然であろう。  それでは若い研究者は、どうすればよいのだろうか? 私は、自分の体験をふまえて、次のようにアドバイスしたい。自分の行っている研究に専念しよう。一つの領域のエキスパートになることは、サイエンスの進め方を身に付けることである。それができれば、研究者として他の領域に踏み込んでいくことは容易である。面白い時には200%エネルギーを注げば良いし、疲れたら休む。研究に専心すれば、時には精神的な疲労が溜まることは当然のことであり、スポーツをするなりデートをするなり、気分をリフレッシュすることが必要となる。若い時には、時間が自由に使えるのだから、真理の抽出されてくる過程を楽しんで欲しい。研究成果を気にすることは競争の世界で止むを得ないが、気にし過ぎてはいけない。研究は苦しいところが多いからこそ、絶対に面白いところは徹底的に楽しみながらやらないと長続きしない。私自身、そういうことを繰り返しながら、精神的居直りが得意になった。いわく、”これだけやったのだから、後は野となれ山となれ。明日は明日の風が吹く”。この精神が無いと自滅する。直面する手技、解析理論などで、必要と感じたものは元に戻って先人の叡知を賞賛しながら勉強しよう。できれば、1〜2年に一回はチャンスを作って、国際学会で腕試しをするとともに、同じ領域の研究者と話しあってみよう。このような考えのもとで若い学生さんと研究生活を楽しんでいる。雨後のたけのこのように力をつけてくる若い研究者を見ていると、私が定年を迎える10年後までに、どれだけの能力を備えた研究陣が育ってくるのか楽しみである。若い研究者の皆さん、大志をもって薬剤学、創剤学にチャレンジして下さい。