研究概要
1. 生理学的薬物速度論モデルによる薬物体内動態予測法の確立
2. 薬物の血液脳関門および血液脳脊髄液関門透過機構の解明、および脳内動態予測法の確立

3. 薬物の肝臓への取り込み、胆汁排泄機構の解明

4. 薬物間相互作用の解析

5. 肝、腎、脳、癌へのドラッグデリバリーシステムの開発

6. トランスポーターに関する情報検索データベース(T-search)の構築

7. 小胞体ストレスを起源とした細胞死に促進的に働く因子の同定とその機能解析

1.生理学的薬物速度論モデルによる薬物体内動態予測法の確立

 薬物による効果、副作用を予測するためには、薬物血中濃度推移の予測が必須である。血中濃度推移は、1)肝での代謝、排泄クリアランスおよび腎での排泄クリアランス、2)種々の組織への分布の程度(分布容積)により記述することができる。ヒトにおけるこれらパラメーターを、種々のin vitro実験系(単離細胞膜、遊離細胞、灌流臓器)で得た測定値(代謝、輸送、結合)をもとに、生理解剖学的パラメーターと結合し、適切な数学モデルを用いて予測する方法論を開発している(図1)。腎クリアランスについては、実験動物での情報をもとにアニマルスケールアップの手法を適用することにより、ヒトでの値を予測することに多くの例で成功している。しかし、肝代謝クリアランスや肝取り込み、胆汁中排泄クリアランス、消化管吸収クリアランスなどについては動物種差が大きいため、ヒトの組織やミクロソーム、P450発現系などを用いたin vitro代謝実験、輸送実験で得られたデータをもとに、in vivoでの代謝、輸送クリアランスを予測することを試みている。また、近年、種々の薬物間相互作用に基づく副作用の発現が問題となっており、社会問題ともなっている。薬物間相互作用により変動し得る体内動態の要因としては、薬物の吸収、血漿蛋白結合、トランスポーターによる生体膜透過、および代謝が挙げられる。現在、主に代謝、排泄における薬物間相互作用を、in vitro実験によりできるだけ精度よく予測するための方法論について検討している。更にデータマイニングの手法を取り入れ、文献データに現在の分子論的理解を加えることで、体内動態の個人差の予測、薬物間相互作用の予測を行っている。こうした研究は、最終的には副作用の少ない医薬品の開発、使用法の確立につながるものであり、“薬学研究に関わる者としての使命を感じながら研究を進めている。

図1 生理学的薬物速度論に基づいた薬物体内動態の予測