研究概要
1. 生理学的薬物速度論モデルによる薬物体内動態予測法の確立
2. 薬物の血液脳関門および血液脳脊髄液関門透過機構の解明、および脳内動態予測法の確立

3. 薬物の肝臓への取り込み、胆汁排泄機構の解明

4. 薬物間相互作用の解析

5. 肝、腎、脳、癌へのドラッグデリバリーシステムの開発

6. トランスポーターに関する情報検索データベース(T-search)の構築

7. 小胞体ストレスを起源とした細胞死に促進的に働く因子の同定とその機能解析

5.肝、腎、脳、癌へのドラッグデリバリーシステムの開発

 薬物の標的組織に対するデリバリーはその組織細胞膜における輸送特性に着目することが重要である。現在、薬物動態の組織選択性を支配すると思われるトランスポーター類の種々の組織における発現を図6にしめした

図6 肝臓、腎臓、小腸に発現するトランスポーター

 

 
例えば、脳への選択的な薬物のデリバリーを構築する場合、図7に示すように血液脳関門には脳への物質の取り込みに働く種々の輸送機構が存在することから、これらの輸送系によって認識されるようにデザインすることが重要である。また脳からの物質のくみ出しに働く輸送機構によって認識されるような場合には、逆に認識されにくいようにデザインすることも必要である。肝臓や腎臓の輸送担体による薬物の輸送は薬物の消失ルートを決定する上で重要である。肝臓が薬効のターゲットである場合、肝細胞の取り込みに関わる輸送担体による輸送が重要である。また、腎疾患患者への投与が期待される薬物の場合、腎からの排泄ばかりでなく肝での代謝や排泄を適度にうける薬物の方が病態に応じた体内動態の個体差を回避することができる。さらにある種の抗癌剤では胆汁排泄が副作用(消化管障害)につながることが示唆されており、このようなケースでは胆汁排泄に関わる輸送担体をブロックすることも重要である。現在、このような輸送担体による認識性の制御を目指した薬物デザインの研究を試みている。一方、生理活性ペプチドや遺伝子、アンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイム、RNAiなどは、いずれも医薬品としての開発が期待されているものの、分子量が大きく脂溶性も低いために細胞膜透過性は一般的に低い。これらの薬物を標的組織に選択的にデリバリーするには、それ自身の構造を作り替えるか、あるいは標的組織に選択的に移行する特性を持った化合物(キャリアー)を開発し、それと結合させた状態で投与するかのいずれかの方法が考えられる。キャリアーの標的として生理活性ペプチド受容体は、発現している場所に組織選択性があり、しかも受容体に結合した後のキャリアーの細胞内部への取り込み速度が極めて速いことから有望である。実際、血液脳関門や癌細胞において発現レベルの高い受容体が知られており、これらを標的としたキャリアーと薬物とを結合させることにより、目的とする薬物を脳ないし癌へ選択的にデリバリーすることが可能となる。また標的蛋白質を認識するキャリアーとして、蛋白質に対するモノクローナル抗体や蛋白質と選択的に結合する物質(リガンド)を用いる手法がある。現在、主にトランスポーターを利用した組織選択的にデリバリーが可能になるようなドラッグデザインを目指した研究を展開中である。

図7 血液脳関門(脳毛細血管内皮細胞)を介した薬物の移行経路