分子イメージングに関する研究

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生体内の情報システムは,細胞内のシグナル分子を細胞内の時空間を特定して活性を制御することで,形成されている.このシグナル分子からの情報伝達に瞬時にかつ高選択的に摂動をもたらす技術は,複雑な伝達様式を内在する情報システムを解析する上で強力な武器となり,画期的な成果を生み出す.我々の研究室では,光化学的手法や有機化学,光学,構成的アプローチなど分野横断的な手法を用い,ケージド化合物,機能性光増感剤など,生命科学を紐解く新たなツールを開発し応用することで,生体分子や細胞が構成するシステム・ネットワークを理解することを目指している.具体的な例としては以下のようなツールの開発に取り組んでいる.

  • 合成生物学的な手法に基づく,細胞機能摂動法の確立.
  • 新規骨格に基づくケージド化合物の開発.
  • 条件認識により光増感活性の変化する機能性光増感剤の開発.

研究内容 (1) で述べている蛍光の制御原理の確立等の物理有機化学的な研究は,上記のような機能性蛍光プローブ開発の土台となる重要な役割を果たしており,我々のグループの大きな強みの一つである.

独自に確立したユニークな合成生物学的な手法を駆使することで,細胞の貪食機能をシンプルに再構築した例.細胞の貪食には多様なシグナル分子が複雑に絡み合っている(図-左側)が,細胞表面へのタンパク質提示の制御を可能とした我々の新技術を応用することで,もともと貪食能を有さない細胞においても,①細胞表面に対する貪食の対象となる細胞への接着機能の提示,と② Rac の活性化という2つの摂動を与えることによっても細胞貪食過程が再構築可能であった(図-右側).

蛍光プローブ開発で用いている分子内スピロ環化平衡反応を応用することで,Se-Rhodamine の持つ光増感能の制御を可能とした新規機能性光増感剤: HMDESeR-βGal とその応用例.HMDESeR-βgal は,β-Galactosidase との反応前,増感能が著しく抑えられているが,反応生成物( HMDESeR) は,高い増感能を示す(図-右側グラフ).
ショウジョウバエのウィングディスクの一部に β-galactosidase を発現させ,開発したプローブを適用すると,光照射により遺伝子が発現している領域でのみ光増感による細胞死を惹起できた(図-下段).


最近の成果


  1. "Development of pathway-oriented screening to identify compounds to control 2-methylglyoxal metabolism in tumor cells"  Kouichi Yanagi, Toru Komatsu, Yuuta Fujikawa, Hirotatsu Kojima, Takayoshi Okabe, Tetsuo Nagano, Tasuku Ueno, Kenjiro Hanaoka and Yasuteru Urano

    Commun.Chem.

    , 6, 68 (2023) doi:10.1038/s42004-023-00864-y
  2. "Leading Edge Elongation by Follower Cell Interruption in Advancing Epithelial Cell Sheets"  Chika Okimura, Misaki Iwanaga, Tatsunari Sakurai, Tasuku Ueno, Yasuteru Urano, and Yoshiaki Iwadate

    Proc. Natl. Acad. Sci. USA.

    , 119, e2119903119- (2022) doi:10.1073/pnas.2119903119
  3. "Discovery of an F-actin–Binding Small Molecule Serving as a Fluorescent Probe and a Scaffold for Functional Probes"  Takeru Takagi, Tasuku Ueno, Keisuke Ikawa, Daisuke Asanuma, Yusuke Nomura, Shin-nosuke Uno, Toru Komatsu, Mako Kamiya, Kenjiro Hanaoka, Chika Okimura, Yoshiaki Iwadate, Kenzo Hirose, Tetsuo Nagano, Kaoru Sugimura and Yasuteru Urano

    Sci. Adv.

    , 7, eabg8585- (2021) doi:10.1126/sciadv.abg8585