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超分子タンパク質分解酵素プロテアソームの動作機構の解明及びプロテアソーム機能異常と疾患(がん、炎症、老化、神経変性)

Research 1図1: プロテアソームはユビキチンシステムによってユビキチンが付加されたタンパク質を選択的に分解することができる。選択的なタンパク質分解は不用になったものを除去するためだけに必要なのではなく、様々な生命現象において必須の役割を果たしていることが分かってきている プロテアソームとは細胞内に存在するタンパク質分解酵素の一つです。主として、分解のための目印となるユビキチン鎖をユビキチンシステムにより付加されたタンパク質を分解します。これを「ユビキチン・プロテアソーム系」と呼びます。この分解機構の優れている点は、分解すべきタンパク質をピンポイントで見つけ出し、パーフェクトなタイミングで分解を実行するところにあります。細胞周期、シグナル伝達、転写制御をはじめとした細胞内で行われている様々な活動において、このタンパク質分解機構が中心的な働きを担っています(図1)。
zu2.jpg図2: クライオ電顕による出芽酵母26Sプロテアソームの構造 (Beck et al. PNAS 2012) 図中青色は表面チャージが酸性部分、赤色は塩基性部分を示す プロテアソームは33種類のサブユニットが総計66個集合して形成される巨大な酵素です(図2)。ユビキチン鎖の認識と捕捉、ユビキチン鎖の切り離し、タンパク質の解きほぐしと分解活性中心への送り込み、タンパク質分解を一つのプロテアソーム内ですべて実行するため、極めて精緻かつ合理的に組み立てられています(図3)。しかし、このような複雑な構造体がいかにして正確に組み立てられているのか大きな謎でした。私たちはこれまでにプロテアソームの形成に働く特異的なシャペロン分子を多数発見し、その形成機構の詳細を明らかにしてきました。
zu3.jpg図3: 26Sプロテアソームは2つのサブコンプレックスであるCPとRPから形成される。RPはCPの制御因子であり図中の1から4の機能をもち、RPによってCP内に送り込まれたタンパク質はペプチド断片に分解される さらに最近、この組み立て機構が細胞の状況に応じてプロテアソームの量を調節する大きな役割を持つことを見いだしています。プロテアソームの量の制御という観点からいえば、プロテアソームのサブユニット群の転写調節機構もほとんど解明されていません。プロテアソーム量の調節の破綻は、がん・神経変性疾患・老化などの病態にも大きく関連していることが知られています。今後もプロテアソームの発現制御機構と形成機構を追求することにより、細胞内のプロテアソーム量を調節する機構の解明、およびその機構とこれら一連の疾患との関連を明らかにし、疾患治療の新しい戦略の開発に結実させることを目指します。
 現在、プロテアソームを標的とした創薬が最も奏功しているのが「がん」です。がん細胞はその生存のためにプロテアソームを大量に産生していることが知られており、プロテアソーム阻害剤bortezomibが多発性骨髄腫に対して著明な効果を示すことが明らかになっています。「プロテアソームを増やさないようにする薬」の開発により、新しいがん治療に結びつく可能性があります。
 がんとは反対に、プロテアソームの機能低下は老化や神経変性に関連しています。加齢に伴ってプロテアソームの機能が低下することが知られていますが、近年の驚くべき報告として、ショウジョウバエや線虫のモデル生物において加齢によるプロテアソーム機能低下を生じないようにしたところ、その個体の寿命が延長し、神経変性なども抑制されたというものがあります。このことは、神経変性をはじめとした老化に伴う諸疾患発症にプロテアソームの機能低下が関与していることを示唆するものです。「プロテアソームの機能を上げる薬」の開発により、老化・神経変性による症状を改善できる新しい治療に結びつく可能性があります。