メンバー

藤澤貴央(助教)、菅原祥(D3)、坂内千尋(D2)、坪田 充司(D2)、林 裕輝(D2)、若月大晃(D1)、田淵璃子(B5)、前川リラ(M1)、樋口昌士(B4)、吉川美登利(医)

研究概要

 我々は主に、抗酸化酵素SOD1とストレス応答性キナーゼASK1という、生体内の二つの重要分子の機能と、その機能がどのように制御されているかを明らかにすることを目指しています。その他にも、ミトコンドリア局在型プロテインホスファターゼPGAM5の機能解析や、小胞体内の不良タンパク質分解機構ERADの作動メカニズムの解析などを行なっています。これらの研究を通して、様々な生理現象がどのようにして起こるかを分子レベルで詳細に解明しつつ、さらには種々の疾患の治療標的の発見にまで繋げていきたいと考えています。

研究内容①―SOD1構造変化のメカニズムと意義

 細胞内で活性酸素の除去を担う抗酸化酵素SOD1は、遺伝子変異により運動神経変性疾患ALSの発症につながる、ALS原因遺伝子でもあります。我々は、SOD1変異によるALS発症メカニズムとして、変異型SOD1とERAD構成因子Derlin-1との結合を介したERAD阻害と、それに伴うERストレス依存性の運動神経細胞死を明らかにしました1。変異型SOD1は、本来の野生型SOD1では立体構造内部に隠れているDerlin-1結合領域DBRを構造変化によって露出しているため、Derlin-1との結合力をもちます2。
 その後の解析により、SOD1の構造変化は、ALS変異のみならず亜鉛枯渇条件下でも引き起こされ、Derlin-1との結合を介してERストレスを誘導することを明らかにしました3。遺伝子変異が無くともSOD1の構造変化が見られることは、このSOD1の構造変化を介したERストレス誘導メカニズムが、SOD1変異を伴うALSのコンテクストのみならず、SOD1変異のないALSやそれ以外の様々な生理的条件下で機能している可能性を示唆しています。しかしながら、定常状態でSOD1の立体構造がどのように維持され、亜鉛枯渇刺激下でSOD1の構造変化がどのようにして起こるかは明らかとなっていません。そこで現在は、SOD1の構造制御に関わる因子の同定を目的としたゲノムワイドsiRNAスクリーニングと、そのヒット因子の解析を行なっています。このようなSOD1構造制御のメカニズムの解析を通して、SOD1がどのようなコンテクストで構造変化し、その下流で何が起こるかという生理的意義が明らかになることを期待しています。

1.  Nishitoh, H. et al. ALS-linked mutant SOD1 induces ER stress- and ASK1-dependent motor neuron death by targeting Derlin-1. Genes Dev 22, 1451–1464 (2008).
2.  Fujisawa, T. et al. A novel monoclonal antibody reveals a conformational alteration shared by amyotrophic lateral sclerosis-linked SOD1 mutants. Ann Neurol 72, 739–749 (2012).
3.  Homma, K. et al. SOD1 as a molecular switch for initiating the homeostatic ER stress response under zinc deficiency. Mol Cell 52, 75–86 (2013).

研究内容②―ASK1の活性化メカニズムとその生理的意義

 当研究室では長年、ASK1をはじめとするストレス応答性キナーゼであるASKファミリー分子に注目して研究を行ってきました。これまでの研究から、ASK1は酸化ストレスや小胞体ストレス、ウイルス感染など様々なコンテクストで活性化し、細胞死や遺伝子発現誘導など多彩な役割を担うことが明らかになりました4。ASK1は、脳や肺、肝臓、腎臓、脂肪組織など全身の様々な臓器に発現しているのですが、ASK1がそれぞれの場所でどのような機能をどのようなメカニズムで発揮しているか、不明点はいまだ多く残されています。
 ASK1が発現している臓器の中で、最近我々が特に注目をしているのは脂肪組織です。脂肪組織というと、エネルギー貯蔵を主な目的とする「白色脂肪組織」のことが思い浮かぶかと思いますが、生体内には「褐色脂肪組織」と呼ばれるものも存在します。褐色脂肪組織は白色脂肪組織とは異なり、エネルギーを消費する器官であると考えられています。そのため、褐色脂肪細胞を活性化させたり、褐色脂肪細胞の数を増やしたりすることが、ある種の代謝性疾患の治療戦略となりうると考えられています。最近我々は、この褐色脂肪細胞が未分化な細胞から成熟した細胞に分化する段階で、ASK1が重要な機能を発揮することを明らかにしました5。このASK1の機能というものは、個体全体の代謝恒常性維持に寄与するものであり、ASK1の新たな存在意義を示すことができたといえます。
 この他にも、ASK1がどのように活性化されるか、他の分子にどのような働きかけをするかを、分子生物学的、生化学的な手法を用いて解析を行っています。また、ASK1を基盤とする ”分子ベース” の解析のみならず、脂肪細胞の新たな機能探索などの ”現象ベース” の解析にも取り組んでいきたいと考えているところです。
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4. Sakauchi, C., Wakatsuki, H., Ichijo, H. & Hattori, K. Pleiotropic properties of ASK1. Biochim Biophys Acta - Gen Subj 1861, 3030–3038 (2017).
5. Hattori, K. et al. ASK1 signalling regulates brown and beige adipocyte function. Nat Commun 7, 1–10 (2016).

(文責:藤澤貴央・林裕輝)