G-Umeda

 

野口グループ2007

 今年度は、山内本間の2名の新人が加入し総勢8名のグループになりました。両名ともかなり遅い時間まで実験しているようで、非常に頼もしく感じています。また、従来のメンバーもここ1年での成長が随所に感じられ、いよいよ本格的なASK1解析チームになりつつあるのではないかと考えています。

野口グループメンバー

  野口 拓也 助教)         Takuya Noguchi  D.D.S. Ph.D.
  藤野 悟央 (博士課程3年) Go Fujino
  永井 宏彰 (博士課程2年) Hiroaki Nagai
  村上 史織 (修士課程2年) Shiori Murakami
  寺田 優美 (修士課程1年) Yumi Terada
  福富 尚  (修士課程1年) Hisashi Fukutomi
  山内 翔太 (修士課程1年) Shota Yamauchi
  本間 謙吾 (
学部4年)  Kengo Homma


研究内容

1. 活性酸素とASK1
 ASK1は通常、安全装置であるチオレドキシン(Trx)と複合体を形成して不活性化状態にあります。しかし、活性酸素がこの安全装置を解除し、起爆装置であるTRAFとの複合体形成が促進されると、ASK1は強く活性化されます(野口グループ2006参照)(EMBO J., 17, 2596-2606 (1998), J. Biol. Chem., 280, 37033-37040 (2005))。このモデルは、活性酸素という物理化学的なシグナルをリン酸化シグナルという細胞内シグナル伝達系に変換する機構として極めて興味深い発見であると考えています。というのも、活性酸素や紫外線などの生体に有害なストレスを細胞が感知する機構についてはその多くがいまだ解明されていないからです。
 そこで、私たちはTrx-ASK1複合体が活性酸素を感知する機構についてさらに詳細な検討をしています。これまで、どのようにしてTrxやTRAFがそれぞれ安全装置・起爆装置として機能しているのかわかりませんでしたが、藤野が中心となって解析した結果、その一端が明らかとなりました。まず、ASK1のある領域の構造変化がASK1の活性化に重要であることが新たにわかりました。そしてその領域を挟み込むようにTrxやTRAFが結合し、その領域の構造変化を制御していることがわかりました(Fujino G, et,. al: 現在査読中)。
 今年度、藤野は新人の山内とコンビを結成し、この領域の構造変化についてさらなる詳細の解析に着手しました。この詳細が明らかになれば、将来的にASK1の活性調節が人為的にできるようになるかもしれません。これはASK1の過剰な活性化によって引き起こされる強い炎症や細胞死を人為的に調節できることを意味し、ASK1が創薬のターゲットとなる可能性を含んでいます(ASK1の疾患への関わりはJ. Biochem. Mol. Biol., (review article), 40, 1-6 (2007).を参照)。

2.ASK1シグナルソーム
 ASK1は細胞内で2,000kDaにも達する巨大なシグナルソーム(細胞内情報伝達複合体)を形成しています。しかし、どのような構成因子によって巨大な複合体が形成されているのか、ということに関してはごくごく断片的な情報しかありません。私はかねてからシグナルソームを何とか丸ごと精製したいと考えていました。またそのためには体力のある人手が必要だと感じていました。そんな矢先に本間が加入してきたので、私(野口)とともに念願のASK1シグナルソームの精製に着手することができました。現在のところ知的好奇心100%のプロジェクトかもしれませんが、構成因子が解明されることでASK1に関する新たな知見が得られるものと期待しています。

 


3.ABP300とABP20
 ASK1と活性酸素依存的に結合するのはTRAFだけではありません。その他にABP300とABP20(ともに仮名)も結合することが分かっています。しかし、その役割はよくわかっていません。これらの因子とASK1の関わりを明らかにすることはASK1活性化機構の解明を目標にする我々にとって急務とされています。昨年度に引き続き永井が解析しているABP300はデータが徐々に蓄積しており、ASK1にとって重要な翻訳後修飾の意義が明らかになるものと期待されています。永井は早く論文に、とハッパをかけられている状態です。
 一方のABP20はABP300と同様にプロテオミクス手法によって同定された活性酸素種依存的ASK1結合因子です。この解析は昨年度から寺田が一手に引き受けて解析をしております。ABP20に関してはまだまだ多くの実験が必要なのですが、クリアなデータも出てきており、将来有望なプロジェクトです。一刻も早く本名が出せることを切に願っています。

4.発毛とASK1
 創傷治癒過程における発毛誘導はASK1ノックアウトマウスで遅延します。(野口グループ2006参照)。この発毛誘導には、活性化されたマクロファージが重要な役割をしているということがわかってきました。しかしながら、活性化したマクロファージがどのように発毛誘導するのかわかっていません。村上は昨年度に引き続き、その機構あるいは直接発毛を誘導する因子についての解析を試みています。

5.小胞体ストレスとASK1
 ASK1は活性酸素のみならず小胞体ストレスによっても強く活性化されます。しかしながら、その機構はわからないことが多く残っています。このプロジェクトは福富が任されています。福富の頑張りによって今後大きなトピックスになるものと思われます。

6.自然免疫応答とASK1
 細菌やウイルス感染初期の迅速な生体防御機構である自然免疫応答において、ASK1は炎症性サイトカインの誘導を介して生体防御に貢献していることが明らかとなっております。一方で、積極的にアポトーシスを誘導する局面があることもわかってきました。私と福富でこの機構の解明に取り組んできました(論文作成中)。さらにその生理的意義についても検討していこうと考えています。


2007年4月27日細胞情報学教室第一研究室で

私たちの研究に興味のある方はnoguchi[at]mol.f.u-tokyo.ac.jpまでお気軽にご連絡下さい。またご意見などもお待ちしております。

野口グループ2006

 一條研では、ストレス応答に重要な役割を担っているASK1というリン酸化酵素(キナーゼ)の解析をしています。しかしながら、最近ではASK1と非常に高い相同性をもつASK2やASK3が同定されたことなどから研究対象が一気に多様化してきました。さらにDrosophilaやC. elegansを用いた遺伝学的アプローチなど、解析手法も多様化してきました。このことはASK1を従来の生化学的手法を用いて解析する人口が減りつつあることを意味するのですが、ASK1にはまだまだ解析する余地が多く残されています。このような状況の中で、頑としてASK1攻略を第一目的とするグループが私たち野口グループです。

 ASK1がこのラボから世に出て10年近くになります。これまで多くの先輩方が解析に携わり、多くの発見がなされました。私たちはこれらを土台にしてさらなる高みを目指しています。それは未だ全容が明らかでないASK1活性化機構の解明、そしてその生理的意義の解明であり、さらには臨床医学に応用できる科学的基盤の構築までを視野に入れています。また、最近では海外のラボでもASK1研究が盛んになり、とてもホットになってきました。我々としてはこれらの刺激を受けながらおおいに競い合おうと考えています。ですから、メンバー全員で体力勝負の速度戦を敢行しています。
 

野口 拓也(助手)

 

Takuya Noguchi  D.D.S. Ph.D.

藤野 悟央(博士課程2年)

Go Fujino

永井 宏彰(博士課程1年)

Hiroaki Nagai

村上 史緒(修士課程1年)

Shiori Murakami

寺田 優美(学部4年)
    
Yumi Terad
a

福富 尚(学部4年)
 
Hisashi Fukutom
i

研究内容

   

1.ASK1活性化制御機構の解明

 ASK1の活性化をIn vitro kinase assayで検出すると炎のようなバンドが出てきます。この凄まじさは圧巻で隣のレーンに流した他のキナーゼの活性化など見えやしません。決して誰も口にはしませんが、この迫力と存在感はクローニングされた先生によく似ていると思っています。ところが細胞内のASK1は、普段はおとなしくしているようです。それは、ASK1は細胞内で2,000kDaにも達する巨大なシグナルソーム(細胞内情報伝達複合体)を形成し、その構成因子により厳密な制御を受けているからだろうと考えています。なかでも、そのひとつであるチオレドキシン(Trx)という分子はASK1の無用な活性化を防ぐための安全装置として機能していることがわかっています。ところが、様々な原因により細胞内に発生した活性酸素はこの安全装置をはずしてしまいます。この安全装置(Trx)の解離がASK1の活性化の引き金となるのです。さらに、安全装置がはずれたASK1にはTRAFという分子がASK1に結合してきて、ASK1を激しく活性化します。つまり、TRAFはASK1の起爆装置であると思われます(下図参照)。

  ところが、TrxとTRAFがどのようにASK1に作用してそれぞれ安全装置や起爆装置として機能しているのか、その詳細はまだわかっていないのです。これは何としても明らかにしたい命題であり、現在全力で取り組んでいます。現在までにわかっていることは、どうもタンパク質の修飾に解明の鍵があるようです。詳細は省きますが、この修飾は『物理的修飾』と『化学的修飾』に大別されます。恵まれた体格と体力の持ち主である藤野はフィジカルに強かろうということで(?)、『物理的修飾』の解析を担当しています。案の定、豊富な実験量に比例するかのごとく新しいデータが出てきています。どうやらボスの采配が的中したようです。そして『化学的修飾』は野口が解析をしていますが、こちらはまだまだ時間を要しますm(__)m。

 

2.ABP300

 前述しましたように、ASK1シグナルソームにTRAFという起爆装置が結合することでASK1は活性化します。しかしながら、永井が活性化型ASK1シグナルソームを生化学的に精製してみたところ、ASK1シグナルソームに結合してくるのはTRAFだけではないようです。なかでもABP300(仮名)という機能未知の分子はASK1活性化制御に重要な役目を担っているものと思われます。しかし、このABP300が何者かよくわかりません。そこでABP300の正体を暴こうと寡黙な永井が躍起になっています。あいにくABP300は300kDaもあり、クローニングするだけでも苦労するだろうと思いきや、淡々と変異体の作製までこなしています。定評のある実験精度が博士課程に入っていっそう上がり、昨年以上に多くの実験を抱えさせられています。突っ走る藤野寡黙な永井は好対照ですが、いずれにせよ質の高いデータを出せる先輩として、修士課程の後輩には頼もしい存在でしょう。
 

 

3.発毛誘導因子の同定

 ASK1ノックアウトマウスは創傷治癒過程における発毛誘導が大幅に遅延します。つまり、毛が生えにくいのです。この理由についてはだいぶわかってきました。ところが、興味深いことにある培養細胞の溶解液を皮下に投与するとASK1ノックアウトマウスにも立派な毛が生えてくるということが明らかになりました。それは、細胞溶解液の中に発毛誘導因子があるということを示唆しています。そこで、その因子を精製し同定しようと試みています。このプロジェクトは村上が担当しています。修士課程1年生には大変なプロジェクトですが、持ち前の知性と粘り強さで数百匹のマウスと格闘しています。たまに疲れてウエスタンブロットの電流を逆に流してしまっても、それはご愛嬌というものです。先輩である藤野永井もしっかりサポートしてくれているので、きっと著しい成長を遂げることでしょう。

 

4.その他

 まだまだASK1に関わる興味深いプロジェクトがあります。炎症や免疫、小胞体ストレスとASK1の関わりやASK1シグナルソームに結合している機能未知タンパクの解析などです。縁あって野口グループに配属された東京大学薬学部4年生の寺田福富は、現在徹底したトレーニングを受けており、近い将来いずれかのプロジェクトを担当します。このトレーニングはちょっぴり厳しいもので、止む無く終電を逃しカプセルホテルで寝泊まりするハメになった福富は誰からも同情されませんでした。

   

 


2006年6月29日薬学系研究科研究棟エントランスで

私たちの研究に興味のある方はnoguchi[at]mol.f.u-tokyo.ac.jpまでお気軽にご連絡下さい。またご意見などもお待ちしております。

 

 

2005年度
   

      野口サブグループ

 野口グループは私(野口拓也)が東京医科歯科大学大学院の卒業に伴って、2005年4月に発足した新しいグループです。グループといってもメンバーは私を含めてたった3人なのですが、人数の少なさを補って余りあるほどにHigh Activityの永井&櫻井という素晴らしいメンバーに恵まれ、非常に活気あるグループとなっています。野口グループはRadical & Ambitiousをモットーとし、グループメンバー3人で三位一体となって『科学的新知見によってボス(一條秀憲教授)をギャフンと言わしめよう』ともくろんでいます。
   

野口グループメンバー

野口 拓也 (CREST研究員)               

永井 宏彰 (修士課程2年)

櫻井 友子 (修士課程2年)

   
               
   

研究内容

(野口)

 私は大学院時代に一條秀憲教授の門を叩き、武田弘資助教授の直接指導のもと、再三再四に渡る叱咤激励のおかげで現在に至っております。

 私の大学院時代のテーマは、『酸化ストレスにおけるASK1活性化の分子機構』でした。つまり、細胞内でASK1がどんな状態で存在していて、そこに活性酸素がどんなMolecular eventを引き起こすことによってASK1が活性化されるのか?ということをやってきました。

その結果、

  • ASK1は細胞内で2,000kDaにも達する巨大なシグナルソーム(細胞内情報伝達複合体)を形成している。
  • 活性酸素依存的な構成因子の変動をもってASK1シグナルソームのActivation Statusが制御されている。

ということが明らかになってきました(Noguchi et.,al J. Biol. Chem. 280, 37033-37040 (2005).)(下図参照)。

 ところが、学会などで発表をさせて頂きますと、必ず矢の如く鋭いご指摘が数多く飛んできます。つまり、まだまだ疑問点がたくさん残っていて突っ込みどころ満載なわけです。この突っ込みどころの解決を永井に強力にサポートしてもらいつつ、さらにASK1シグナルソームの生理的意義について検討し、疾患との関連性や創薬のターゲットとなりうる分子機構を模索し、臨床医学に応用できる科学的基盤の構築を目標に掲げています。

 

 

   

(永井)

 永井の研究テーマは『ASK1シグナルソームの構成因子の同定および解析』です。すなわち、ASK1がこんなに大きな複合体を形成する必要がどこにあるのか、そしてその形成を制御しているのはどんな機構で、それがASK1の活性化とどう関連するのか?という盛りだくさんのテーマに取り組んでいます。いわば、私が抱える問題をほとんど丸投げされ、かなりのHard Workを強いられています。

 現在は、ASK1シグナルソームの構成因子と考えられる分子Aについて解析を行っております。この分子AはASK1シグナルソームの形成や局在の規定に何らかの役割を持ちそうです。さらに永井は活性化型ASK1シグナルソームを生化学的に精製し、質量分析計を用いて活性化型ASK1シグナルソームに特異的に結合する分子Bと分子Cを同定しました。これらの解析が進むことで、活性酸素だけでなく様々なストレスに対するASK1シグナルソームのシグナル調節機構が明らかになるものと考えられます。 

 永井は淡々と実験を遂行し、質の高いデータを淡々と出してくるので私としてはとても安心しているのですが、時として質量分析計をぶっ壊しましたなどと心臓が止まるようなことも淡々と言ってくるので油断なりません。

(櫻井)

 私たちのグループではASK1のみならず、ASK1と同じMAPKKKファミリーに属するTPL2/Cotという分子にも興味を持っております。果敢にも櫻井が単独でこの解析を試みています。TPL2/CotはMAPキナーゼだけでなく、NF-kBあるいはNFATなどの活性化にも関わっていますが、TPL2/Cotがこれらの複数の経路の活性化をどのように制御しているのかということはその多くがまだ明らかではありません。

 ところが、櫻井は本人の意思とは全く別のところで非常に興味深い現象を見つけてしましました。その現象はTPL2/CotによるNF-kB経路の活性化だけを特異的に抑制する機構が存在するということを示唆しています。TPL2/Cotがプロトオンコジーン(変異や組換えで発癌遺伝子に変換可能な遺伝子)として同定された経緯を考えても、この機構の解明には大きな意義があるものと考えています。

 櫻井も永井と同様に相当数の実験をこなしてくれてとても頼もしいのですが、櫻井のデータはその解釈において必ず私に難題を課してきます。つまり、単なるネガティブデータなのか新しい可能性を秘めたデータなのかの見極めが難しく、まるでグループヘッドとしての私の力量を試すかのようなデータを持ってきては私をうならせています。

   
               

 


野口グループメンバー:(左から)櫻井・野口・永井
       2005年5月25日一條研第4研究室で
私たちの研究に興味のある方はnoguchi[at]mol.f.u-tokyo.ac.jp
までお気軽にご連絡下さい。
またご意見などもお待ちしております。