ASK2の機能解析
ASK2は、1998年にYaoらのグループによってASK1の結合分子MAPKKK6として報告されました(文献2)。実は私たちのグループも同じ時期にASK1をベイトとした酵母two-hybridスクリーニングによってASK2を同定していましたが、ASK2のキナーゼ活性はASK1と比較して著しく低く、その機能解析は非常に困難なものでした。
その困難を打破したのは「抗体」でした。ASK2抗体の作製は何度となくトライしましたが、内在性分子を検出できる抗体はできませんでした。最近、やっと内在性ASK2を高感度に検出できる抗体の作製に成功し、ASK1とASK2の内在性分子同士の結合を検出することで、ASK2が定常状態でのASK1シグナルソーム(野口グループの紹介参照)の構成因子であることを明らかにすることができました(文献3)。
さらにこの抗体を用いて様々な組織や細胞でのASK2の発現を検討している過程で、ASK1ノックアウトマウス由来の細胞でASK2の発現が著しく低下していることを見出しました。ASK1ノックアウト細胞におけるASK2 mRNAの発現は低下しておらず、プロテアソーム阻害剤の投与により野生型細胞と同程度のレベルまでASK2の発現レベルが回復したことから、ASK1と複合体を形成することでASK2は分解から免れて安定化すると考えられました。
実際、ASK1ノックアウト細胞にASK1を発現させることで内在性のASK2の発現が回復します。興味深いことに、キナーゼ不活性型ASK1変異体でもASK2の発現回復が認められることから、ASK1がASK2を安定化させる際、ASK1のキナーゼ活性は必要ないことが分かります。さらにキナーゼ不活性型ASK1変異体は、ASK2を安定化させるだけではなく、ASK2のMAP3Kとしての活性を上昇させ、ASK2に活性酸素種に対する応答性を与えます(ASK2単独はほとんど応答しません)(図2)。よって、ASK2はASK1と複合体を形成することで初めてMAP3Kとして機能すると考えられます。
(図2)ASK1によるASK2の安定化と活性保持
その一方で、ASK1によって活性が保持されたASK2は、ASK1の活性化セグメントのスレオニンを直接リン酸化する活性を示すことから、ASK1とASK2には互いに異なった機構で活性を高め合う機構が存在することになります(図3)。ASK2の安定性がASK1に依存していると考えると、細胞にはASK2単独の複合体はおそらく存在せず、ASK2の発現レベルに応じて、ASK1ホモ複合体から構成されるものと、ASK1-ASK2ヘテロ複合体から構成されるものとの二種類のASK1シグナルソームが存在し、それぞれの複合体内でASK1同士、あるいはASK1-ASK2間で活性の調節が図られていると予想されます。
(図3)ASK1-ASK2複合体内における両者の活性化機構
文献2:Wang, X. S., Diener, K., Tan, T. H., Yao, Z.: Biochem Biophys Res Commun,253, 33-37 (1998)
文献3:Takeda, K. et al.: J Biol Chem,282, 7522-7531 (2007)
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