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2024/07/10

分子薬物動態学教室の東一織大学院生、水野忠快助教、楠原洋之教授らの研究グループが、組織中の細胞種の比率を準網羅的に推定するアルゴリズムを開発


 東京大学大学院薬学系研究科の東一織大学院生、水野忠快助教、楠原洋之教授らによる研究グループは、組織の網羅的遺伝子発現量(トランスクリプトーム)データから当該組織中の細胞種の比率を準網羅的に推定するアルゴリズムを開発しました。
 組織中の細胞比率は、免疫細胞の浸潤などにより変化するため、疾患の病型など、個体の状態を表現する重要な情報です。一方、組織中の細胞比率を実測する方法論は、多くの場合、新鮮組織を対象としており、ビッグデータの蓄積や臨床現場での取得は困難でした。本研究グループは、遺伝子を言葉として扱い、同じ言葉として与えられるマーカー遺伝子名を効果的に活用することで、凍結組織などからも取得可能であり、また公共データベース(公共DB)にも豊富に蓄積されているトランスクリプトームデータより、多くの細胞種の比率を推定する方法論を開発しました。本研究成果は7月10日、国際科学誌「Briefings in Bioinformatics」に掲載されました。
掲載雑誌:Briefings in Bioinformatics
論文題目:GLDADec: marker-gene guided LDA modelling for bulk gene expression deconvolution
著者:Iori Azuma, Tadahaya Mizuno*, Hiroyuki Kusuhara
DOI番号:10.1093/bib/bbae315
 
論文へのリンクhttps://academic.oup.com/bib/article-lookup/doi/10.1093/bib/bbae315
 
発表概要
 東京大学大学院薬学系研究科の水野助教の研究グループは、データサイエンスを駆使して医薬品の認識されていない側面を理解し、活用する研究を進めています。組織中の細胞比率を推定するために、生物情報学的手法であるDeconvolution法が多く開発されています。Deconvolution法は、比較的容易に取得でき、公共DBにも豊富に蓄積されているトランスクリプトームデータを入力に、細胞比率を推定します。しかし、既存の多くの手法は、解析対象データ以外のトランスクリプトームデータ(リファレンスデータ)を必要とするリファレンスベース手法であり、解析対象データとリファレンスデータの相性によって精度が左右されるという課題がありました。最近では、リファレンスデータを必要としないリファレンスフリー手法も開発されていますが、リファレンスがないため、得られた比率がどの細胞種のものであるかを解釈するのが難しいという問題がありました。
 本研究では、リファレンスベース手法とリファレンスフリー手法の両方の課題を同時に解決する「Guided LDA Deconvolution (GLDADec)」を開発しました。提案手法は、トランスクリプトームデータを文書に見立てるリファレンスフリー手法を基盤とし、リファレンスデータへの依存性の問題を解決します。さらに、各細胞種のマーカー遺伝子名をモデルに組み込むことで、解析結果の解釈性を向上させています。この手法は、遺伝子発現量を言葉として扱い、マーカー遺伝子名という細胞種の「タグ」を効果的に活用するモデルです。
 ベンチマークデータセットにより性能を評価したところ、複数のデータセットにおいて、提案手法が既存手法を一貫して凌駕することが示されました。また本手法の特筆すべき点は、解析対象のトランスクリプトームデータ以外に必要な情報が細胞種のマーカー遺伝子名のみであることです。既存の知見として多くの細胞種のマーカー遺伝子名が蓄積されているため、網羅的な細胞種の推定が実質的に可能となります。そこで、ヒトがんのデータベースで公開されている3種類のヒト腫瘍サンプルのトランスクリプトームデータに本手法を適用しました。結果、約50種類の細胞種の比率が推定され、その細胞比率に基づく生存解析は既存の報告されている関係性を確かに検出していることが確認されました。
 トランスクリプトームデータは公共DBに豊富に蓄積されており、人類の財産とも言えます。提案手法を公共DBへ適用することで、様々な状態の組織中の準網羅的な細胞比率データをこれらより大量に取得可能となります。単独の研究者では様々なコスト面で困難であった細胞比率に関するビッグデータが得られるため、パターン認識などのデータ解析に供することで、これまで実験科学的には得られなかった知見にアクセスできるようになると期待されます。また一般にフローサイトメトリーなどの実験科学的手法により細胞比率データを取得する際には、新鮮な組織を対象としますが、トランスクリプトームデータは凍結検体から取得可能です。提案手法を適用することで、臨床現場でも比較的容易に入手可能な凍結検体からでも比較的容易に、そして多く細胞種の比率を取得可能となります。以上のように、提案手法は、組織中の細胞比率に関連する基礎研究の発展や臨床現場での応用の促進に資すると期待されます。
 
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